Category : 本/雑誌 のアーカイブ

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2007年06月26日

横山秀夫『陰の季節』

陰の季節陰の季節
横山 秀夫

文藝春秋 2001-10
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『半落ち』がイマイチだったのであまり期待せずに読んだんですが、これは面白かった。いやぁこのひと短編の方が向いてるんじゃないの。警察は警察でも管理部門のひとに焦点を当てた4つの作品はどれもスッキリとしていて読み易かった。何て言うか、こう中間管理職の哀愁がね、もう堪らない。後味が良いとは言えない話ばっかりだったけど、妙に清々しい諦観が個人的には気に入りました。あと全編通して出てくる二渡さんが本人視点と他人視点では別人のように見えたのが面白い。格好良く見えても中の人はいっぱいいっぱいなんだなーとちょっと微笑ましくなった。所詮ワタシはミーハーだ。

2007年06月24日

伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

オーデュボンの祈りオーデュボンの祈り
伊坂 幸太郎

新潮社 2003-11
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地図に載っていない島、喋るカカシ、嘘しか言わない絵描き、死刑執行人。冒頭部分で出てくるこのキーワードだけ見てどんな中2病設定なファンタジーかと思ったが、実際は読めば読むほど世知辛い現実が待ち受けているミステリーでした。そして非常に良く出来ている。未来を告げる神秘的なカカシが何故自分の死を予見出来なかったのかという謎を主人公がといたシーンは最高。とは言えその動機を考えて、ちょっとブルーにさせられた。伊坂先生好きだけど、ホント読む度世知辛い気持ちになるんだよ!


しかしラストで城山が桜にボコられるところにはスッキリしたなぁ。正直このシーンのために桜の『善悪には頓着しない』設定があるのかと思ったくらいだ。相変わらず話運びは上手く、会話も軽快さが気持ち良いので一気に読めました。

2007年06月23日

エミリ・ブロンテ『嵐が丘』

嵐が丘(上)嵐が丘(上)
エミリー・ブロンテ 河島 弘美

岩波書店 2004-02-19
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ブロンテ姉妹ラストになってしまったエミリ。一般的にはこれがいちばん高評価らしいですね。確かに畳み掛けるような展開と描写にはものすごい臨場感を感じた。エミリすごい。シャーロットやアンが割とエンジンのかかりの遅い物語展開だとしたらエミリは即全開、そのまま終盤までフルスロットルで息切れ無しって感じ。ま、前半のキャサリン死去までに比べると後半は盛り上げ役がヒースクリフしかいなかったせいか温い気はしましたけど。でも始めっから終わりまで読者を掴んで放さない物語の濃さには恐れ入った。 前に読んだときは「ヒースクリフあぶねぇなー」くらいの印象しかなかったんですが、今読むと怖いのはキャサリンだ。ヒースクリフはただのドM。自分にしか分からない価値観でヒースクリフではなくエドガーと結婚し、それでもヒースクリフを昔同様に愛して奴等を仲違いさせた挙句、「2人が私を追い詰めて殺すんだわ」と訳の分からない錯乱を起こし男共を恐慌状態に陥れる。もう最高だ。こういう女に人生滅茶苦茶にされてみたい。うん、嘘。 なんにせよキャサリンのキレっぷりとイザベラの転落ぶりは一度は見ておくべきだと思いますよ。あ、あとヒースクリフの息子の腐れっぷりもだ。アイツは豆腐の角で頭ぶつけて死ぬタイプ。

服部まゆみ『一八八八 切り裂きジャック』

一八八八切り裂きジャック一八八八切り裂きジャック
服部 まゆみ

角川書店 2002-03
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これもゆずさんのオススメ。「切り裂きジャック」ものですが、リアルタイムな英国で語り手が日本人というのはちょっと新鮮で面白かった。ただ彼は異邦人という意識が強いせいか事件へののめり込みが足らなくて、読んでるこちらはヤキモキしましたよ。なので事件の謎を解き明かすと言うよりも事件の起きている現場で恋に自分におろおろしてる留学生の自分探しって感じですね。こういうの大好きですけど。そして友人鷹原の超人振りが凄くて笑ってしまった。駄目な語り部柏木を補うため事件に深く関わらせようとしたからこんな感じになったんでしょうけど、ここまでスーパーマンだといっそ清々しくて憧れる。ラブ。

2007年06月21日

高橋たか子『誘惑者』

誘惑者誘惑者
高橋 たか子

講談社 1995-11
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ひょんなことから過去の自殺者について調べ始めてしまい行き着いたのがこの本。かの有名な三原山連鎖自殺の端緒となった2人の女学生、彼女らに付き添った少女を主人公に据えた名作です。多少の設定は変えているものの実際に起こった出来事はほぼそのままに1人目の自殺の前から始まって2人目が死ぬまでを主人公視点でねっとりと描き出しています。もうとにかく主人公の友人2人が怖い。主人公の淡々とした視点も怖いけど、自分が死ぬために主人公を利用しなければいられないその一本気な少女特有のナルシズムがホント怖かった。特に1人目はそんな自分のナルシズムに翻弄されながらも主人公が救ってくれないことに「あたしはあなたのせいで死ぬ」と言い切っちゃうんだから傲慢だよなぁ。でもそんな自己愛に満ちた親友2人の死を受け止めて山を降りていく主人公がやっぱりいちばん怖いのかもしれない。高橋女史の筆でこの主人公の行く末を見たかったな。多分実際とは違うことになってるんだと思う。

2007年06月19日

シャーロット・ブロンテ『ヴィレット』

ヴィレットヴィレット
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 青山 誠子

みすず書房 1995-06
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ついにシャーロットを読み終えた。ああああ、今とっても淋しい。可愛らしい8歳ポーリーナの言葉を借りるなら「シャーロット、あたち、あなたのこととても好きよ!」って叫びたいくらいシャーロットが大好きな自分に気付いてもう何て言うか感無量。『ヴィレット』はシャーロットが書き終えた最後の完結小説になるのですが、これがまた『教授』『ジェイン・エア』そして『シャーリー』ときて最後を締め括るのに相応しい素晴らしい小説でした。『ジェイン・エア』でさえ泣かなかったのに、『ヴィレット』の最後では軽く涙が出たよ。マジで。自己洞察の冷静さに措いて姉は妹(アン)に劣ると言ったあの言葉を撤回したい。『ヴィレット』におけるルーシーの描写は本当に、読んでいるこちらの心が凍るんじゃないかと言うほど、冷徹で容赦がなかった。

ベルギーのブリュッセルをモデルにした架空の都市ヴィレットで、天涯孤独な中産階級の娘、ルーシー・スノウが生きて悩み恋をして絶望しそれを乗り越えていく過程がこの物語の根幹を成している訳ですが、そのくせシャーロットはルーシーをジェインのようなヒロインらしいヒロインには祭り上げていない。ルーシーが主人公だと知っていたワタシでさえ、冒頭部分を読んだとき彼女は同名の別人かもしくはこの先に急展開があって性格が変わってしまうに違いないと思ったくらいだ。それくらいルーシーの観察眼は自己ではなく他人に向いていて、彼女を通して描き出される様々な人々は生き生きと輝いていた。何て言うかもう、堪らない。これはシャーロットの書いた小説の中でもいちばん自伝的要素が濃いと言われていますが、もし彼女がそのつもりでこれを書いていたのならこの物語における主人公でありながらの脇役感は彼女自身がそれを強く感じていたためなのかなぁと思って切ない気持ちになってしまうのですよ。だから正直ルーシーとムッシュ・エマニュエルの間に、方向性はともかく、特別な絆のようなものが見えたときは嬉しくなった。シャーロットは『ジェイン・エア』以降ロマンチシズムを前面に押し出したものを書くのは気が進まなかったようですが、彼女の恋に悩む男女の描写には物凄く惹き付けられるものがあるのでムッシュとの関係に揺れ動くルーシーを眺めているのはとても楽しかった。まさか終わりがあんなことになるとは予想してなかったけど。あのラストは書き手だけが持ち得る力を存分に発揮された気がした。もっともっとシャーロットにはたくさんの作品を書いて欲しかったよ。

2007年06月15日

シャーロット・ブロンテ『教授』

教授教授
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 海老根 宏

みすず書房 1995-12
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シャーロットの死後発表された遺作にして処女作品。しかしなかなかどうして面白かった。語り手であるクリムズワースは男性ではあるけれどシャーロットの書く主人公らしい気難しさと「ある特別の精神」を持っているし、何があっても冷静沈着を友とすることを信条にしている辺りはワタシの可愛いジェインと同じ血を感じる。ワタシの目から見るとちょっと偏屈でうざったそうなこの主人公を「美人ではないが賢い」(これもお得意だ)フランシスが心底愛するようになるってのはとてもシャーロットらしい。クリムズワースがフランシスを探して街を探し回り、墓場で漸く出会えるシーンは堪らなく良かった。

ただ先に『ジェイン・エア』や『シャーリー』を読んでしまった身からするとこの作品は彼女らしい地に足のついた描写、特に恋愛以外の面で発揮される精密さ、が欠けてるかなと思った。特に最期のクリムズワースとフランシスが結婚して一財産を築きイギリスに渡るまでの描写がそこに至るまでの過程とは比べようもないくらい大雑把。それなら結婚するところで止めとく方がらしいのにな、と思った。まぁそういう構成の面も含めて初めて書いた小説っていうのはしっくりきた。タイトルが『教授』であることから考えてこっちの方がよりシャーロットの心情が深く反映されているのかもしれない。


そうそう、この『教授』には未完の作品『エマ』『ウィリー・エリン』が収録されているんですが、これがまた続きの気になる興味深い作品なんですよ。文章量的にもまだプロット段階っぽいこの話を完全な形で読めなかったことが非常に悲しい。美味しいデザートを見せるだけで引っ込められたような気持ちになった。

2007年06月13日

八木 教広『CLAYMORE 』

CLAYMORE 1 (1)CLAYMORE 1 (1)
八木 教広

集英社 2002-01
売り上げランキング : 100
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弟がアニメを気に入って買ってきたので読ませてもらいました。今週の頭くらいからチョビチョビ読んではいたんですが、休みに入ってようやく12巻まで読み終えました。女の子大好きなワタシにとっては出てくる登場人物の8割が女の子という天国のようなマンガです。そして結構容赦無い。ここはガチ!って感じの女の子以外は皆死ぬ。もうバタバタ死ぬ。ワタシのお気に入りもどんどん死んだ。大雑把な物言いですがクレイモアが女の子しかなれないっていう設定がもうなんというか堪らないのだと思う。これが男だったら戦って死ぬというのはある種王道というか、まぁ仕方ないよなという気持ちになるのだが女の子だからなぁ。それも皆少女と言って良い外見なのでなんでこんな娘たちを戦わせにゃならんのだという仄かな憤りも生まれてしまって、しかもそこに萌えてしまうのだからワタシも業が深い。 この話の何とも言えないもどかしさは他にもあって、主人公クレアが追う仇とも言える人物がラスボスではないのですよ。ついでにクレア弱いし。確かに主人公補正は掛かっているけどそれはワタシが読み手だからそう思えるのであって、物語上はクレアは弱くて役に立たないし仇と狙う一本角の化け物は最強じゃない。物語の中心に主人公がいるのではなく、物語の中に主人公が取り込まれている、このパターンはなかなか深くて良いと思いました。まだ連載途中だけど終わりがどういう形になるのかとても興味深いマンガですね。

しかしこのマンガを掲載している月刊ジャンプが廃刊で週刊の方に移るらしいんですが、正直このカラーは週刊に合わないだろう。週ジャン化するクレイモアなんて見たくないし、このままいって打ち切られようものならこの美しい世界観を途中で途切れさせることになってしまうよ。今更ながらファンの嘆きが理解出来てワタシも悲しい。

2007年06月11日

シャーロット・ブロンテ『シャーリー』

シャーリーシャーリー
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 都留 信夫

みすず書房 1996-08
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アンから再びシャーロットへ。『ジェイン・エア』の次に出されたこの作品は今までのもの(アンも含めて)と勝手が違い過ぎて最初ちょっと戸惑いました。今までの1人称に変えて3人称を、語り手であった主人公は冒頭どころか300ページ近くまで出てこない、おかげでヒロインのシャーリーが出てくるより先にワタシの心はその友人である可愛らしいケアリ(キャロライン)にぞっこんです。ケアリ可愛いよケアリ。あんな打算男のロバートなんかにお前は渡せねぇとかもう気分は既に父。とは言えケアリはロバートに恋をし過ぎて死に掛けるので、この恋が報われなかったらワタシ泣いてたでしょう。ロバート・ムアは個人的には気に入らないけど、ラストのケアリを背後から抱き締めるシーンは予想外で良かった。

物語的には男の世界(唯物的)と女の世界(唯心的)なものの同時進行という感じで、その両側に自分の領域を持つ女伯爵のシャーリー・キールダーを軸に時代の動きと彼女の住むフィールドヘッドを巡る動きがあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら一つの流れに収束し、収まるべきところに収まった感があって良かった。ただひとつ、物語自体の経過時間が短いことがちょっと不満でしたが、読み応えのある時代のワンシーンを綿密に書き切ったシャーロットには脱帽。シャーリーとキャロライン、全くタイプの違う女性をそれぞれのらしい在り方で一個性としての強い女性を書いたのも興味深かったです。

ケアリについては前述の通りですが、一応ヒロインについても一言。シャーリーの気難しさは『ジェイン・エア』のロチェスターをより進化させたようで終盤彼女が誰を愛しているのかが分かった後も本当にこのふたりは結婚するのだろうかと思わされる不可解さに満ちていた。まぁ相手がそんなシャーリーに詰られながら屈服させたいとか言ってる変態なのでお似合いだと思いますが割と感情移入のし難い女性だったかな。これはもしかしたら冒頭でシャーロット自身が『ジェイン・エア』のようなロマンスは期待しない方がいい、と言ったそのことにも起因しているのかもしれない。ロマンスよりもリアリズムをより前面に押し出して書こうとした彼女の試みは決して悪くないけれどラストでダダ漏れになるロマンチシズムが彼女を堪らなく可愛く思わせてしまう。シャーロット大好きー

2007年06月10日

えすのサカエ『未来日記』

未来日記 (1)未来日記 (1)
えすの サカエ

角川書店 2006-07
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ネットの評判とサイトの立ち読みに興味を惹かれて購入。いやぁ、ヒロイン由乃の破壊力が思った以上で参りましたよ。何だこのクレイジーガールは。狂信的なほどの雪輝への愛と彼以外への無関心振りにワタシが由乃に惚れそうです。恋に一直線な乙女は大変可愛らしいものですが、彼女のそれは愛情を向けられる本人にとっては恐怖以外の何物でもないと思うと報われない彼女が可哀想だなぁと思ってしまう程度には由乃が大好きです。とはいえ自分が雪輝の立場になりたいかといえばそれは願い下げですが(チキン) 10分おきに観察日記つけられるほどの愛情は持て余しちゃうよなーでも由乃のキレっぷりは傍から見ていると本当に可愛くて応援したくなるので熱意のこもった目で見つめていたい。 そんな由乃への愛ばかりが先走りそうになるこの『未来日記』ですが、ストーリーもなかなか面白くて続きが気になります。最終的に残るのは雪輝と由乃になるのかな。個人的には4thのひとの内面にドロドロしたものがあってくれると良いなぁと思ってます。ただの良いひとでは終わらないと思ってるけど。
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