Category : 本/雑誌 のアーカイブ

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2007年06月09日

アン・ブロンテ『ワイルドフェル・ホールの住人』

ワイルドフェル・ホールの住人ワイルドフェル・ホールの住人
アン ブロンテ Anne Bront¨e 山口 弘恵

みすず書房 1996-02
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『アグネス・グレイ』に心臓打ち抜かれた勢いでもう一つのアン作品である『ワイルドフェル・ホールの住人』へ突入。こちらは600ページ超の長編でかなり読み応えでしたが、飽きさせない展開にもう夢中になって読んでました。アンのリアリズムは『アグネス・グレイ』で厭と言うほど理解していたんですけどこちらはそれ以上だな。行間から「馬鹿は一生馬鹿」「馬鹿に悔い改めるという言葉は無い」という彼女の主張が滲み出てくるような、ヒロインであるヘレンの夫ハンディンドン氏に対する描写が特に凄い。これでもかこれでもかというほど彼の愚行を書き連ね、最後の最後まで彼を悔い改めさせようとはしない残酷なほどの現実。どこまでも冷静に書き進めるアンを想像して背筋がぞくぞくしちゃいましたよ。ところでこのハンディントン氏の最期、ヘレンがどれほど熱心に神への祈りを勧めてもそれを受け容れようとしない無理解さに芥川の『六の宮の姫君』を思い出した。どちらも周りがどれだけ訴えても本人にその意思が無いのだから無駄だなという思いにさせられる話だ。 とは言えハンディントン氏とヘレンの出来事はこの長い話のほんの一幕でしかなく(ある種重大な一幕ではあるが)、ハンディントン氏の死によって主人公ギルバートが何でヘレンと結ばれたのかはかなり不思議。氏ほど酷くはないけれどギルバートだって大した男じゃない気がするけどなーもうひとりの求婚者とどう違うのか正直ワタシには分からなかったよ。まぁ締めが「みんな幸せに暮らしました」なので良しとしよう。 しかしアグネスにしろヘレンにしろアンの書くヒロインの頑固さにはホントビックリさせられる。アンはそんな感じだったのかなぁ。もっと彼女の作品を読んでみたかった。29歳なんて若過ぎるよ。

2007年06月05日

アン・ブロンテ『アグネス・グレイ』

アグネス・グレイアグネス・グレイ
アン ブロンテ Anne Bront¨e 鮎沢 乗光

みすず書房 1995-08
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『ジェイン・エア』に触発されてブロンテ全集を読むことにしました。『ジェイン・エア』と『嵐が丘』以外は手軽に手に入るものではないので図書館で入手。成り行きでまずは末の妹アンの『アグネス・グレイ』から。シャーロットとエミリ程有名ではない彼女の作品に関しては姉妹という括りで全集に入っているのだとばかり思っていましたがとんでもない。度肝を抜かれた。 主人公であるアグネスが家庭教師であるというところは姉の作品と同じであるものの、ジェインが教え子であるアデールと十分な信頼関係を築き上げていたとは正反対にアグネスは雇い主である両親からも教え子である子供たちからも不当なほど蔑まれ、あまつさえ召使にさえも馬鹿にされてしまう。当時の家庭教師という存在がどれほど不当な扱いを受けていたのかがよく分かります。1軒目の時点でもう読んでるこちらはムカムカして仕方がないのにアンは手を緩めずこれでもかこれでもかという酷い仕打ちの数々を連ね上げる。ラストがウェストン氏のプロポーズで本当に良かった。これでアグネスの恋が報われなかったらこの世には神も仏もないのかと思わされるところだ。ハッピーエンドにこんなにホッとしたのも久しぶりでした。 それにしても自身も家庭教師を勤めていたアンのこと、これは半分アンの自伝みたいなものだと思うのですが、だとしたらここまで惨めに自己を見つめて描写する冷静さと観察眼は脅威だ。『ジェイン・エア』にはロチェスター氏への想いと自己の規律で悩み己を叱咤する描写はあれど、アグネスのように不当な仕打ちでプライドを粉々にされるようなことは無い。そんな筆にするのも腹立たしい出来事をひとつひとつ丁寧に書くアンは表現者としての冷静さと描写のリアリティさにおいて姉を上回っていると思いました。ただアグネスが心情を吐露する際、必要以上に己を卑下するところなんかはちょっと姉のシャーロットを彷彿とさせたかな。イヤもうとにかく良かった。ブロンテ姉妹は最高だ。

2007年06月03日

シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』

ジェイン・エア(上)ジェイン・エア(上)
C・ブロンテ 小尾 芙佐

光文社 2006-11-09
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久々に読み返し。何回読んでも面白いとは分かっているけど本当に面白い。初めて読んだときはロチェスター氏の妻が都合良く死んでしまったことにどうにも納得のいかないものを抱えていたけれど、今となってみればそうせざるを得なかったシャーロットの気持ちが分かり過ぎてむしろこれで良かったのだという気持ちにさせられた。それにたとえそういったロマンチシズムがラストで全開になろうとも全編を通して伝わるジェインの注意深さ、ある種臆病さは大変に可愛らしいものだし理解出来るので最後くらい華々しく浸らせてやれよーという気持ちが強くなったことも否定出来ない。ワタシも歳をとったものだ。

それにしても落ち込むジェインをロチェスター氏が慰める(?)くだり、「ひどいしょげようだ、すこし何か言うと涙ぐむほどーほら、もう、いっぱいたまって光ってますよ。まつ毛から一滴こぼれて、床に落ちたじゃないですか。」がもう堪らない。ロチェスター貴様ドSだなって罵ってやりたいくらいだ。でも涙ぐむジェインを見たらワタシもそんな気になるのかもしれない。『ジェイン・エア』にはこういった名場面が多過ぎてホント困る。今のところ唯一原書で読んだ本だけあるわ。

2007年05月27日

伊坂幸太郎『ラッシュライフ』/ 恩田陸『ドミノ』

ラッシュライフラッシュライフ
伊坂 幸太郎

新潮社 2005-04
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ドミノドミノ
恩田 陸

角川書店 2004-01
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ゆずさんに「何か面白いの貸してー」と頼んだら出てきたのが『ラッシュライフ』、今日漸く読み終わって真っ先に浮かんだのが恩田陸先生の『ドミノ』でした。一見関わりなんて無さそうな暮らしをしているひとたちが実は何処かで繋がっていて直接的にも間接的にも影響を与え合っているその瞬間を神の視点で眺められるこういう語は大好き。映画でいえば『マグノリア』みたいなやつ。なので大変楽しく読ませて頂きました。しかし『ドミノ』がどちらかといえば非現実的な展開で蛙が降って来てもおかしくないのに対し、『ラッシュライフ』はひとりひとりの人生が重いですね。何て言うか、こう、世知辛い。ラストにちょっとした救いを示唆させるものはあったものの、『最後はみんな幸せになりました、めでたしめでたし』じゃないところがハッピーエンドを愛するワタシとしてはちょっと悲しくもありそれだけにズンとくるなぁという感じ。ま、京子さん辺りは自業自得の感もあるけど、こういう女の人って憎めないんだよねぇ。

伊坂幸太郎というひとの作品は初めて読んだのですが、割と読みやすくて良かったので他のにも手を出してみようかな。でもその前にもう1回『ドミノ』読もう。あのラストの爽快感は他の恩田作品には感じられないものでした。イヤ、恩田先生大好きだけど。

2007年05月26日

横山秀夫『半落ち』

半落ち半落ち
横山 秀夫

講談社 2005-09
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映画にもなったベストセラー作品。家にあったので読んでみましたが期待したほど良い話ではなかったかな。映画の宣伝とかだと『アルツハイマーの妻を殺した刑事の自首までの2日間を追う』といった煽り方をされていたような気がしたのでてっきり刑事と妻の間に何がしかの秘密があってそれを誰かが探り出すのかと思ってました。ところが蓋を開けてみたら妻関係無いし。メチャクチャ自分のことばかりじゃないか!と軽く憤ってしまいましたよ。イヤそれ自体は別に腹が立たないと言うか、妻を殺して自分も死ぬ、的な自殺の理由に他人を利用する方が厭な感じなので構わないのですが、周りの人間の反応がね、解せないんですよ。まぁ秘密を隠し持っているから探ろうというところは良い。けどその後での皆が皆「アイツのことはそっとしておけ」っぽい空気になっているのがどうも何だかなーと。元々梶刑事というひとはとても良いひとで殺人も病気に苦しむ妻を楽にしてやるためだから臨んで殺した訳ではないというのは理解出来るけど、だからってあそこまでするかなー特に志木刑事。出てくるひとが皆善人過ぎるような気がしましたよ。 あと視点となる登場人物がころころ変わるのもちょっと物語に入り込めなくて困った。視点となっている間は梶刑事探る気満々なのに、他の人にバトンタッチした途端「そっとしておけ」はないだろう。視点間の繋ぎで同一性が薄いような気がしたのも登場人物に感情移入してのめりこむワタシには合わなかったのかも。もうちょっと梶刑事について丹念に書いてくれれば良かったのにと、そういう意味ではとても惜しい作品でした。他の作品はどうなんだろう、家にあったので今度読んでみます。

2006年10月21日

高村薫『李歐』

4062630117李歐
高村 薫
講談社 1999-02

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ガチホモだ、という話はきいてたので心の準備は出来ていましたが本当にそうで驚いた。いきなり現れて「惚れた?」って言う人間、一彰が女でも引くだろうとつい素で考えてしまったためか最初の方はうまく物語りに入り込めなかった。だって全体に流れる雰囲気は重いのに一彰が李歐を語るときに描写が無駄に詩的になるものだから笑ってしまう。しかし李歐は一彰のどこが気に入ったのかは最後までよく分からなかったなぁ。あと咲子の存在があまりにも可哀想だった。物語的には楽しめたんだけど、結局幸せになったのが一彰と李歐ってのがなー多数の屍の下にある幸福って仕方ないとは言え全面肯定で受け入れられるものじゃないよね。そんな不満分を差し引いてもこの壮大さには打ちのめされるくらい良かったです。

2006年10月04日

高村薫『地を這う虫』

4167616017地を這う虫
高村 薫
文藝春秋 1999-05

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短編集。読み終えてまず思ったことは浅田次郎の短編に世知辛さを加えたらこうなるのかな、ということ。何かもう出てくるひと出てくるひと切ないほど不器用なんだもの。しかしそれだけにどの物語の主人公にもすんなりなじめた。いちばん好みだったのは『巡り合う人々』ですね。こういう偶然は好きだ。

2006年09月29日

高村薫『マークスの山』

4062734915マークスの山(上) 講談社文庫
高村 薫
講談社 2003-01-25

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直木賞受賞作品。ワタシが女史の名前を知ることになった作品でもありますが、読んでみてこれほど予想と違う作品も珍しいと思った。まぁそれは彼女の作品に冠せられた『超硬派』というレッテルと適当なこと言うあらすじのせいだ。

とにかく終盤のマークスを追うシーンがとても良い。そこに至るまでの過程についてはやけに冗長で合田刑事の過去とかどうでも良いじゃねぇかとか思ったけど、ラストの盛り上がりは大層楽しめましたよ。あんな形で終わるとは思ってなかったけど、これ推理小説じゃないからそんなものか。ただ人物関係がちょっとばかり無駄に絡み合い過ぎてたのでその辺もうちょっとスッキリさせてマークスと合田刑事の輪郭を浮き立たせてくれたら最後の追跡劇がもっと格好良いものになったんじゃないのかなぁ。でも楽しく読めたので良いです。

2006年09月09日

高村薫『黄金を抱いて翔べ』

4101347115黄金を抱いて翔べ
高村 薫
新潮社 1994-01

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とあるサイトさんで高村女史について触れられていたくだりに妙に惹かれて読んでみました。高村薫と言えば『マークスの山』くらいしか知らず、それさえ世間の超硬派小説という評を鵜呑みにしていたワタシはこれを読んで大層驚かされることになりましたよ。うん、何て言うか、お仲間?みたいな気持ち。もちろん物語的にはあっという間に読み終えてしまったことからも申し分のない面白さだったんだけど、超硬派と言われる割には随分とセンチメンタルな展開じゃないですか。ふたりがくっつく必然性なんてあんまりなかったのにそうしないではいられなかった高村先生の情緒的な部分に正直萌えました。うん、先生にね。ずっととっつきにくい委員長タイプだと思っていた女の子がふと見せた可愛らしさに気付いてしまったようなそんな感じで嬉しい。見た目のイメージと世間様の『超!硬派』からものすごく硬い文章のひとかと思って敬遠していた自分が馬鹿みたい。もっと読まなくちゃ。

気付いたら全然ストーリーについて触れていませんが面白かったですよ。登場人物の生き方が地べたを這うような生々しい感じで読んでて鬱になるくらいに、枝葉の部分が登場人物の姿を眼前に押し付けすぎて困るくらいに物語の世界に入り込めました。

2006年06月12日

恩田陸『クレオパトラの夢』

4575234834クレオパトラの夢
恩田 陸
双葉社 2003-10

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『MAZE』の魅力的な脇役(?)神原恵弥を主人公に据えたミステリー。前作のような不可思議さは鳴りを潜め、どっちかって言うと『政府の陰謀』っぽい日本的な推理小説になっている気がする。『MAZE』でのバッサバッサ切るようなメグミの語り口調が気に入っていたので読んだのですが、物語としては普通でしたね。そして前作に比べて登場人物のアクが強いのでメグミの特異さもあんまり目立っていなかった。でもやっぱりメグミが好きな人は読んだ方が良い。そんな話でした。
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