2007年06月19日

本/雑誌】 シャーロット・ブロンテ『ヴィレット』

ヴィレットヴィレット
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 青山 誠子

みすず書房 1995-06
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ついにシャーロットを読み終えた。ああああ、今とっても淋しい。可愛らしい8歳ポーリーナの言葉を借りるなら「シャーロット、あたち、あなたのこととても好きよ!」って叫びたいくらいシャーロットが大好きな自分に気付いてもう何て言うか感無量。『ヴィレット』はシャーロットが書き終えた最後の完結小説になるのですが、これがまた『教授』『ジェイン・エア』そして『シャーリー』ときて最後を締め括るのに相応しい素晴らしい小説でした。『ジェイン・エア』でさえ泣かなかったのに、『ヴィレット』の最後では軽く涙が出たよ。マジで。自己洞察の冷静さに措いて姉は妹(アン)に劣ると言ったあの言葉を撤回したい。『ヴィレット』におけるルーシーの描写は本当に、読んでいるこちらの心が凍るんじゃないかと言うほど、冷徹で容赦がなかった。

ベルギーのブリュッセルをモデルにした架空の都市ヴィレットで、天涯孤独な中産階級の娘、ルーシー・スノウが生きて悩み恋をして絶望しそれを乗り越えていく過程がこの物語の根幹を成している訳ですが、そのくせシャーロットはルーシーをジェインのようなヒロインらしいヒロインには祭り上げていない。ルーシーが主人公だと知っていたワタシでさえ、冒頭部分を読んだとき彼女は同名の別人かもしくはこの先に急展開があって性格が変わってしまうに違いないと思ったくらいだ。それくらいルーシーの観察眼は自己ではなく他人に向いていて、彼女を通して描き出される様々な人々は生き生きと輝いていた。何て言うかもう、堪らない。これはシャーロットの書いた小説の中でもいちばん自伝的要素が濃いと言われていますが、もし彼女がそのつもりでこれを書いていたのならこの物語における主人公でありながらの脇役感は彼女自身がそれを強く感じていたためなのかなぁと思って切ない気持ちになってしまうのですよ。だから正直ルーシーとムッシュ・エマニュエルの間に、方向性はともかく、特別な絆のようなものが見えたときは嬉しくなった。シャーロットは『ジェイン・エア』以降ロマンチシズムを前面に押し出したものを書くのは気が進まなかったようですが、彼女の恋に悩む男女の描写には物凄く惹き付けられるものがあるのでムッシュとの関係に揺れ動くルーシーを眺めているのはとても楽しかった。まさか終わりがあんなことになるとは予想してなかったけど。あのラストは書き手だけが持ち得る力を存分に発揮された気がした。もっともっとシャーロットにはたくさんの作品を書いて欲しかったよ。

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