Category : 本/雑誌 のアーカイブ

 1 |  2 |  3 |  4 |  5 | 全部

2009年08月02日

2009年夏の読書課題

何となく思い立って目標なんぞ立ててみました。


山本周五郎賞受賞全作品読破!


いや何作か読んで結構当たりだったのでやってみようかなーと思い、
あえて宿題っぽく宣言してみましたww
これから1ヶ月、どこまで読めるかなぁ。


リストはこちら。読み終わったら斜線で消して感想書けたらリンク張ります。


山本周五郎賞受賞作品
第01回 山田太一『異人たちとの夏』
第02回 吉本ばなな『TUGUMI つぐみ』
第03回 佐々木譲『エトロフ発緊急電』
第04回 稲見一良『ダック・コール』
第05回 船戸与一『砂のクロニクル』
第06回 宮部みゆき『火車』
第07回 久世光彦『一九三四年冬―乱歩』
第08回 帚木蓬生『閉鎖病棟』
第09回 天童荒太『家族狩り』
第10回 篠田節子『ゴサインタン―神の座―』
      真保裕一『奪取』
第11回 梁石日『血と骨』
第12回 重松清『エイジ』
第13回 岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』
第14回 中山可穂『白い薔薇の淵まで』
      乙川優三郎『五年の梅』
第15回 江國香織『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』
      吉田修一『パレード』
第16回 京極夏彦『覘き小平次』
第17回 熊谷達也『邂逅の森』
第18回 垣根涼介『君たちに明日はない』
      荻原浩『明日の記憶』
第19回 宇月原晴明『安徳天皇漂海記』
第20回 森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』
      恩田陸『中庭の出来事』
第21回 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』
      今野敏『果断 隠蔽捜査2』
第22回 白石一文『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』


ちなみにイタリックのは昔に読んだけど忘れてるやつ。優先度低めです。

2008年02月16日

伊藤整『鳴海仙吉』

鳴海仙吉 (岩波文庫)鳴海仙吉 (岩波文庫)
伊藤 整

岩波書店 2006-07
売り上げランキング : 343205

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
今年に入ってから何となくジャンルを固定せずに読もうという意識(はて?)が強くなっているためか、図書館で本を借りるとき「戦国系2冊、ミステリ1冊、エンタメ系1冊、純文系1冊、ラノベ1冊」のような消化不良を起こしそうな借り方をしています。とは言え、音楽にも言えることですがワタシは元々物事に関するジャンル分けの概念に疎いためどれがどのジャンルに属するのかよく分からんのですね。なのでこのジャンル傾向借りも明確な基準があるのではなく主な判断基準は装丁と出版社です。そしてこの伊藤整先生の『鳴海仙吉』は岩波文庫だったので純文だろうと適当に判断して借りた訳ですがなんか色々と予想を裏切ってくれて面白かった。


この『鳴海仙吉』というタイトルが前から気になっていた上、分厚くて読み応えがありそうだったため借りたのですが作者があの著名な評論家の伊藤整先生であることに気付いたのは読み始めてから。冒頭を読んでいたときは単なる私小説だと思っていたのに途中でいきなり主人公鳴海仙吉が雑誌に発表したという体裁の評論文が章ひとつ分丸々使って登場した上、仙吉自作の詩なんかも随時ぽんぽん出てきてしまうのだからアレと思うのも当然って言うか作者の名前くらい読め自分。教科書にも載るようなお堅い評論野郎のイメージがあった伊藤先生が小説を書いていたことは知っていましたが、こんな愛だの恋だのに迷ったり卑屈オーラ全開の鬱男の独白を延々続けたりする人間臭い小説を書くなんて意外だったなぁ。ただ単にワタシが無知なだけなんですが。でもホントあの肖像写真と『小説の方法』のイメージから「一緒に死んで呉れなかったの」なんてセンチメンタルなフレーズは出てこない。まぁアレは仙吉の作品で伊藤先生が書いた訳ではないといわれればそれまでですが、どうみても仙吉の描写(特に見た目)は伊藤先生そのものな気がしてならないのですよ。冒頭で「私小説ではなく鳴海仙吉はあなたです」という文言がなければ間違いなく自伝だと思ったに違いない。とブツブツ言ったところで小説として発表された以上、それが虚構であれ事実であれ読むワタシにとっては対岸の火事には変わりがないので嘘か誠かはどうでも良い。ただ今まで知っていた伊藤整のイメージとは随分違うところにあったかなぁ。評論ってあまり得意でないので伊藤先生は敬遠していたのですが、小説は割と好きなタイプかもしれない。常に思考の中心は自分で他者の自分に対する目、自分が他社に振舞う行動に対する他者の批評を気にする辺りは特に痛いところ突くなぁって感じ。基本的に文系の男子女子って自意識過剰だなぁと常日頃自覚しているそれを思いっきり引き摺り出されるような気持ちにさせられたのは勘弁だったけど、また1年後くらいに読んでみたい。


しかしこの「私小説+詩+評論」のチャンポン、正直こんなに自分のやりたいことを1冊に詰め込むなんて贅沢すぎやしないか。しかもオチは後味の悪い感じの戯曲で締めてるし。ワタシはユリ子に同情出来ないので仙吉を非難する気持ちにもなれないのですが、マリ子とユリ子のお互いに対する薄ぼんやりとした悪意が妙に怖かった。あと仙吉の奥さんが全く登場しないあたりに夏目先生の『こころ』のお嬢さんを思い出した。常に正当なポジションにいるものは外野に置かれるのが日本文学の伝統なのかしら。

2008年01月03日

2007年マイベスト〜本〜

今年出た本ではなく今年読んだ本で印象に残った10冊についてツラツラ書いてみます。


◎疾走 / 重松清

疾走 上 (角川文庫)疾走 上 (角川文庫)
重松 清

角川書店 2005-05-25
売り上げランキング : 38063
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

好きなサイトさんの日記で拝見したこの本のタイトルの傍に『兄弟の相克』という文字列を発見し一も二もなく手を出しました。珍しい二人称の文体には最初手こずらされましたが読み進めていくうちにそんなことが気にならないくらい世界観にどっぷり濱ってしまいました。一人の少年のあまりに長く短い一生が突き放したような調子で淡々と語られるのはぞくぞくしますね。欲を言えば兄弟の対決がもう少し欲しいところでしたがあの兄にはそういう甲斐性もないんだろうな。理屈抜きに面白い1冊でした。今年のベスト1に挙げたいくらい。


◎いつもの朝に / 今邑彩

いつもの朝にいつもの朝に
今邑 彩

集英社 2006-03
売り上げランキング : 82197
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

今邑彩は元々好きな作家でしたが、この作品は今までにない感動があって良かった。ELTの『恋文』のPVで毎回泣けるくらい割と涙腺緩いワタシですが、このひとの作品に泣かされたのは初めてだ。『失踪』と同じく兄弟の相克をテーマに扱ったものですが、こちらは全体的にソフトな感じ。背景に追っているものはむしろこっちの方が重い筈なのにソフトに感じる理由は兄弟を取り囲む女性たちの存在でしょう。特に兄弟の母親の神っぷりは異常、ラストまでこのひとの存在感が異常すぎて主人公である兄弟が霞んでしまうくらいに。そこがワタシの中で『失踪』に劣る理由かもしれない。もちろん大好きなんだけど。


◎シンセミア / 阿部和重

シンセミア〈1〉 (朝日文庫)シンセミア〈1〉 (朝日文庫)
阿部 和重

朝日新聞社 2006-10
売り上げランキング : 153165
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

急に阿部和重に興味を持って片っ端から読んでみたけれどどれもこれも短くて困る。純文だから仕方ないのかもしれないけどもうちょっと長居の読みたいよなーと思っていたらこれがありました。いやぁ分厚いハードカバー2冊組みですよ。もう読み応えありまくり。このひとのは短編でも結構抉られていたのでこの『シンセミア』には後頭部と言わず頭部を万遍なく袋叩きにされたようなショックをいただきました。現実ってこんなに絶望的?と思わず問い掛けたくなるような力の理論と運が悪いとしか言いようのない不幸、今までの作品でも味わった世界が崩壊する感覚が強く深くじっくりと襲ってこられたので参った。芥川賞のアレでロリコン作家と本読みのマイ友人にも思われているのですが残念なことだ。こんなに面白いのに。


◎ラッシュライフ / 伊坂幸太郎

ラッシュライフ (新潮文庫)ラッシュライフ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎

新潮社 2005-04
売り上げランキング : 720
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

伊坂幸太郎というお人も2007年に初めて知った作家でした。ゆずさんに「何か貸して」と頼んで貸してもらったのがこの『ラッシュライフ』だったんですが、最初読み終えたときはむしろ似たような作品である恩田先生の『ドミノ』に比べて希望がないし暗いし後味悪くて嫌いだったんですよ。でも他に何冊か伊坂作品を読んで後味の悪さも味わいまくった結果このラッシュライフの終わりに希望を感じられるようになりました。明るくはないんだけど皆最後は前向きなんだなーということが実感できた。ワタシもこういうくたばりぞこないでも前向きの姿勢をもって生きていきたい。伊坂先生は今年も追い続けますよ。


◎高村薫 / 照柿

照柿(上) (講談社文庫)照柿(上) (講談社文庫)
高村 薫

講談社 2006-08-12
売り上げランキング : 117972
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

どうでも良い日常の中に爆発の種がある。この作品での起爆装置はひとりの女性だったけど実際ふっと沸いたように起こる小さな不満の連鎖はいついかなる時でも起こり得ることだし、そういう意味では何も特別なことがないだけに怖い話だなぁと思った。ただ不満というか萎える話をすれば合田刑事の存在が相変わらずリリカルで好きなんだけど力が抜ける。合田刑事と言うよりも義兄殿とのやり取りが駄目なんだろうけど。うーん、でも文章はすごく好きなんだ。そんな理由もあって『レディ・ジョーカー』と迷ったけどこっちにした。あっちはラストと言うか終盤でひどいどんでん返しを食らったからな。


◎アグネス・グレイ / アン・ブロンテ

アグネス・グレイ (ブロンテ全集 8)アグネス・グレイ (ブロンテ全集 8)
アン ブロンテ Anne Bront¨e 鮎沢 乗光

みすず書房 1995-08
売り上げランキング : 542511

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

シャーロットの未読も今年は読んだけど、甘く見てたアンに横っ面叩かれたのでこれで。冷静な観察眼とリアリティを追及する描写には圧倒されました。ワタシの今年の目標はブロンテ姉妹の全集を揃えることです。彼女らの作品を常に手元に置いておきたい。


◎化物語 / 西尾維新

化物語(上) (講談社BOX)化物語(上) (講談社BOX)
西尾 維新 VOFAN

講談社 2006-11-01
売り上げランキング : 6056
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

西尾維新もよく読んだので作家括りでひとつ。このひとの狙い過ぎるくらい狙った世界観は逆に清々しいと思う。文体やキャラクターからラノベ扱いされるのは仕方のないことだろうけど、ここまでフルスロットルで何かを振り切った文章というのは書けそうで書けない気がするんだよなぁ。おかげでほとんどの作品を読んでしまった。
そのうちで『化物語』を選んだのはこの話が冒頭すごくつまらなかったから。なんか全然読み進める気にならなくて放っちゃおうかなーと思ったくらいだった。そこを我慢して読み続けていたら、下巻に入る頃にはしっかりはまってしまっていた。たとえ内容が微妙でも(失礼)反復することによりそれが自分の中に馴染んでいくということを実感した1冊です。そういう意味ではシリーズものが強いのも分かる。


◎まひるの月を追いかけて / 恩田陸

まひるの月を追いかけて (文春文庫 お 42-1)まひるの月を追いかけて (文春文庫 お 42-1)
恩田 陸

文藝春秋 2007-05
売り上げランキング : 148276
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

恩田先生も相変わらず色々読んでますが未だコンプには至らず。どれ読んだのか分からなくなっているせいもあるんですけど(『禁じられた楽園』なんて間違えて3回読んだ)、作品自体も多いですよね。そんなわけで慌てず文庫化されたものから読んでます。
そんな恩田作品で今年読んだ中のベストはこれ。失踪した異母兄と彼を探す恋人(の振りした友人)に連れて行かれる『私』、とにかくこの友人がすごく良かったなぁ。決して善人ではないし、自分の目的のために『私』も平気で騙しちゃったりしてるんだけど本人自身も余裕が無いところがひとの複雑さを感じさせてくれる。そういう意味ではラストよりも彼女が消える辺りが印象的だった。繰り返し読みたい1冊だ。


◎反逆 / 遠藤周作

反逆〈上〉 (講談社文庫)反逆〈上〉 (講談社文庫)
遠藤 周作

講談社 1991-11
売り上げランキング : 97424
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

駆け込みで時代劇。年末にはまったゲームの影響で戦国時代を扱った小説が読みたいとゆずさんに話したら教えてくれたのがこの本。彼女お気に入りの荒木村重をメインに据えた小説だそうで、荒木のあの字も知らない自分には大変新鮮でした。遠藤周作先生の文章はもちろん好きだしそういう意味でも読みやすく、また合戦知識がヅラヅラと書かれている訳でもないので戦国初心者にも優しい。荒木村重の奥方がまた素敵な女性で夫婦のやり取りを細やかに書いているところが遠藤先生っぽくて良いなぁ。ゆずさんがオススメするだけある。
しかしこの小説に出てくる信長公はマジでここまで凄いの?っていうくらいの超王様なんですが、もし実際にこんなんでそれを明智光秀が殺したとしたら明智もかなりの化け物だ。まぁ暗殺には諸説あるようなので明智ひとりで殺したとは言えないのかもしれないけどなかなか戦国時代も面白い時代なんですね。これまで全く興味がなかったので(ワタシは鎌倉幕末専門)、今年はちょっと手を出してみようかと思います。


◎一八八八 切り裂きジャック / 服部まゆみ

一八八八切り裂きジャック (角川文庫)一八八八切り裂きジャック (角川文庫)
服部 まゆみ

角川書店 2002-03
売り上げランキング : 187304
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

これまたゆずさんに「何か面白いのかしてー」と頼んで貸してもらった1冊。切り裂きジャックといえば数多くの作品を生み、色々な小説のモチーフにもなっていますがこれは当時のイギリスに滞在した日本人視点で語られていて面白かった。既に感想書いているので特に語ることはないですが、このあと服部先生の本を色々と読んでみて『シメール』でぶっ飛んだことは書き留めておきたい。ほんとビックリした。


他にも色んな楽しい本との出会いがありましたがそれは追々書いていきます。ゆずさん紹介の本が多いので今年も紹介してもらおう。よろしくね。
今年は時代小説とあと日本の純文学、あとラノベを強化したい。余裕があったらいい加減プルーストにも手を出したいな。
面白い本あったらコメントやトラックバックで紹介していただけると嬉しいです。

2007年10月15日

ルース・レンデル『死のひそむ家』

死のひそむ家 (創元推理文庫)死のひそむ家 (創元推理文庫)
成川 裕子 ルース・レンデル

東京創元社 1987-09
売り上げランキング : 470640

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
風呂の中でちまちま読んでいたレンデルが漸く読了。翻訳ものって苦手なんだけど、これは割合ストーリーの流れがすっと頭に入ってきたので読み易かった。そしてワタシにとってこの手の推理小説は新鮮。犯罪行為時にトリックを駆使するのではなく、その準備段階で小細工を弄して自分を犯人候補の圏外にさせようだなんて小憎らしいなぁ。ある意味犯人は分かりきっているのだけど、どうやってその過程を導き出していくのか追っていく楽しさがあった。他のレンデル作品にも手を出してみようかな、特にシリーズものを。

2007年10月14日

恩田陸『puzzle 』

puzzle (祥伝社文庫)puzzle (祥伝社文庫)
恩田 陸

祥伝社 2000-10
売り上げランキング : 15893
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
不可思議な3つの死体を巡るミステリー、と粗筋には書かれてましたがどっちかって言うとファンタジーな人間小説のような気がする。解説で竹本先生も書かれてましたけど島を訪れた2人の検事の心理戦がキモで冒頭に出てくる謎の回答なんて恩田先生的にはどうでもよさげな感じ。ちょっと短すぎて探偵役(?)の春が回答を導き出すプロセスが天才的直感じゃないかと思える節もありましたが雰囲気には概ね満足。出来ればいったん島から帰って調査したりしてもう一度島に戻ってきて種明かし、とかだと舞台装置的には完璧だったんだけどそういう地道な調査とかが似合わない話だったから畳み掛けるような展開になったんだろうなぁ。そこがちょっと残念。しかし謎の死を遂げた3人の死に様があまりにファンタスティックで楽しくなってしまったので良いや。うん、まぁまぁ。

2007年08月13日

服部まゆみ『シメール』

シメールシメール
服部 まゆみ

文藝春秋 2000-05
売り上げランキング : 55062
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
『切り裂きジャック〜』のイメージとはかなりかけ離れた本作、こっちが服部先生の本領発揮なんでしょうかね。じっくり読んで熟考すればきっと深層心理に訴えかけるような深いテーマが隠されているのかもしれませんが、ワタシのような浅学非才の徒には「美少年は素晴らしい」ということしか分かりませんでした。以前どこかで読んだものに「美少年が美少年足りうるのは崇拝者あってこそ」という言葉があって印象に残っていたのですが、『シメール』読むと本当その通りだなと思う。崇拝者が「美しい!ブラボー!!」と思えば実際が残念なお顔でも関係ないんだろうな。その辺りが美少年と美少女を分けるところかなぁ。美少女は崇拝者もさることながら少女自信が自分の美しさに自覚的であることが求められるような気がする。自分の美しさに無自覚な美少女ってそういう世界に存在しないか、存在している場合白痴扱いを受けて美少女でありながら普通の少女以下の存在に落ちてしまっている感じで。といっても全然この辺のジャンルには詳しくないので適当なイメージ。耽美は少しかじった辺りで限界です。稲垣足穂の破壊力に完敗。そして『シメール』の感想が全然書けていない。とにかく色々圧倒されました。

2007年07月21日

伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』

アヒルと鴨のコインロッカーアヒルと鴨のコインロッカー
伊坂 幸太郎

東京創元社 2006-12-21
売り上げランキング : 270
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
青春小説、と呼びたくなるような爽快感のある話だった。 とあるアパートの今と2年前の住人、1人ずつの視点で語られる同時進行型のストーリーは現在と過去が互いにリンクしながらも何故かしっくりこない。その違和感の謎が解けた瞬間の「あぁ!」って感じはたまらなかった。相変わらず登場人物ひとりひとりに味があって良いなぁ。 ただ伊坂先生なので「どうしようもないやるせなさ」はちゃんとあった。今回はそれが『動物虐待』だったのでちょっとここだけは本気で鬱になったのだけど、このやりきれないくらい気持ちは伊坂作品にはなくてはならないものなのかもしれない。平和でほのぼのしたまま終わらせない毒のようなもの、鬱になるけど無いと淋しい。


ところでこれ映画化されたみたいなんですけど、どんな展開になってるんでしょう。絶対無理じゃないかと思った。

2007年07月20日

阿部和重『ABC戦争―plus 2 stories』

ABC戦争―plus 2 storiesABC戦争―plus 2 stories
阿部 和重

新潮社 2002-05
売り上げランキング : 202233
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
短編集。前作よりも読み易くてやや拍子抜けしたが内容はなかなか面白かった。表題作は山形の高校生の間で起こった抗争が巡り廻ってひとりのやくざの死に行き着くというその流れを当時部外者であった「私」が関係者の話を聞きながらまとめていくという展開なのだけど、この流れに「私」の推理と関係者の手記と証言が混ざり、更には「私」のリアルタイムな時間の流れも加わってとんでもない混沌が物語り全体を覆っている。読んでいる最中よりは読後に何度も反芻して楽しめる話ですね。 その他の短編『伯爵夫人の午後のパーティー』『ヴェロニカ・ハートの幻影』はややミステリー調、と言うか夢野久作を髣髴とさせて、夢野先生大好きと言うかもはや崇拝の域に達しているワタシには堪らなく美味しいご馳走小編でした。これは多分買ってしまう。

2007年07月16日

阿部和重『アメリカの夜』

アメリカの夜アメリカの夜
阿部 和重

講談社 2001-01
売り上げランキング : 45559
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
久々に日本の純文学(?) 1ページ目からいきなり回りくどい言い方で話を進める男の独白に丸山健二を思い出した。あー、この一息で読み進められない感じ懐かしいなぁ。特に苦手意識を感じなかったためか最後まですんなり読み終えることが出来ました。うん、なかなか面白かったよ。肥大化した自意識に翻弄された結果秋分の日生まれの自分は春分の日的なものと闘う義務があると思い込んだ主人公の滑稽さが椎名林檎や戸川純に傾倒した文系女子の自意識過剰さと重なって何とも言えない気分にはなりましたけど。登場人物は皆サブカルの領域に属する人間なのにオタクに属するワタシが妙な同属嫌悪(ってほどでもないが)を感じるってことはやっぱりオタクとサブカルって似てるのかなー別にどうでも良いことなんですけど。作中で映画を撮っているからなのか、この作品自体が映画っぽい気がした。他の話もこんなんなんだろうか。


ところでこの作品、純文学にカテゴライズされるだけあって多少表現がしつこい上に同じところを何周もする煩わしさはあったけどそれよりも気になったのは文章の書き方。阿部さんがこういう書き方をするのか、それともこの『アメリカの夜』の語り手である「私」がそういうもったいぶった語り口で語る男という設定なのかまだ1作しか読んでないワタシには判じかねますが、この文章がどうにもこうにもワタシの昔書いた読書感想文を思い出させてちょっとアンニュイになった。上手い下手ではなく(当たり前だ)主題の前に重ねて否定を置く方法は昔えらい叱られたんでトラウマスイッチなんですよ。他の作品もこれだったら読み続ける自信がない。

2007年07月14日

伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』『陽気なギャングの日常と襲撃』

陽気なギャングが地球を回す陽気なギャングが地球を回す
伊坂 幸太郎

祥伝社 2006-02
売り上げランキング : 1053
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
少し前に映画化された作品。番宣でしか見たことなかったので読んでみて自分の思い描いていたイメージとの違いに驚かされた。揃いも揃って駄目駄目で銀行強盗に向かなさそうなひとたちかと思ったら誰も彼もスペシャリストだなんてちょっとときめくなぁ。まぁこれはワタシの単なる思い込みなんですけど。想像していたよりずっと面白く、登場人物それぞれの個性豊かな生き様も良かった。ちょっと映画も見てみたくなったよ。 そして相変わらず伊坂先生らしい話の流れの上手さにしてやられた。やっぱりこの人の書く話大好きだ。たとえ欝にさせられることが多くても読まずにいられない。今回はハッピーエンドで底抜けに明るい話だったのでもう上機嫌で読み終わったよ。4人のギャングにメロメロです。

続きを読む "伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』『陽気なギャングの日常と襲撃』" »

伊坂幸太郎『グラスホッパー』

グラスホッパーグラスホッパー
伊坂 幸太郎

角川書店 2004-07-31
売り上げランキング : 27738
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
『終末のフール』ほどでは無いけれど結構な鬱度でした。伊坂先生の書く「どうしようもない無力感」に毎度毎度打ちのめされては読んでいるんですが、今回は初っ端からそんなんだったんで最後まで読めないんじゃないかと不安になりましたよ。とにかく鈴木の存在が欝だ。酷い過程で妻を亡くしてその復讐のために入った組織なのにあっさり看破されて殺されそうになって、ワタシならこの時点でもう3回くらい死んでる。そんな鈴木なのに他のメイン人物蝉や鯨を押し退けて最終的に生き残れたのは彼の運と、奥さんが見守っていてくれたんじゃないかなぁ。そう思いたい。最後だけ見ると良かったね鈴木、と言えなくもないんだが過程が重過ぎて、やっぱりワタシは欝になる。鯨がかなり好きだったんですけどね、絶対お近づきにはなりたくない。

2007年07月13日

伊坂幸太郎 『終末のフール』

終末のフール終末のフール
伊坂 幸太郎

集英社 2006-03
売り上げランキング : 19904
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
読み終わった日の夜から翌日の昼過ぎまで軽く鬱になってました。何だこの鬱物語は。確かに収録されている小編ひとつひとつのトーンは暗いというよりもむしろ明るくて、中にはこの先に希望を持たせるような終わりのものもある。でもあと3年で世界が滅びるというほぼ確定の絶望感の中でこの明るさは逆に怖いよ。ワタシなんかはこんな状態になったら真っ先に誰かに殺されてそうな人間だけに、ここまで生き残った人間自体がある意味化け物っぽい。この作品世界に存在する前提さえなければ楽しく読めた話なんだろうけど、なんか言いようのない鬱々感にとらわれました。本自体は良かったんですけどねー

2007年07月11日

服部まゆみ『時のアラベスク』

時のアラベスク時のアラベスク
服部 まゆみ

角川書店 1990-11
売り上げランキング : 236384
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
今まで気付かなかったんですが、このひと中井英夫リスペクトだったんですね。むしろ『虚無への供物』と言った方が良いのか。虚無リスペクトと言えば竹本さんの『匣の中の失楽』が真っ先に浮かびますが、この『時のアラベスク』はもう役者と舞台を変えただけで全体の雰囲気はまんま虚無だったなぁ。のっぺりとしていてリアリティのない世界が逆に人物ひとりひとりを強烈に浮き上がらせるこの感じが懐かしい。 ただ作品に冠しては本家『虚無』には及ばなかったかな。『切り裂きジャック』でも思ったことですが、語り手の消極性が物語り自体にも悪い影響を与えているようで全体的に散漫な印象を受けてしまうんですよ。犯人が分かった、とか、謎が全て解けた、というときでさえ「ふーん」と軽く受け流して終わってしまう。多分物語から受けるテンションが一貫して低いんだ。素材も世界も良いのにもったいないなぁ。

2007年07月08日

服部まゆみ『罪深き緑の夏』

罪深き緑の夏罪深き緑の夏
服部 まゆみ

角川書店 1991-03
売り上げランキング : 180852
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
『切り裂きジャック』が面白かったので期待して読んでみたけどこれは普通だったな。怪しげに佇む洋館、そこに住む美しい兄妹、人々の抱える秘密、とゴシックっぽい空気は十分あって良かったのですが、主人公の淳が『ジャック』の柏木以上にイライラさせてくれたので作品世界に浸りきれずに終わってしまった。それに山崎兄弟の相克や、彼らを囲む人間関係への言及もちょっと中途半端で全体的に消化不良。もうちょっと長ければ良かったのかな、と思ったけどこのネタで長編引っ張るのは難しいかも。話の長さに比して登場人物が多過ぎた感じがしました。それでも淳が一心不乱に壁画を描き上げるシーンはちょっと感動した。駄目な子が必死で頑張ってる姿は何故か心惹かれますね。でもそこくらいしか特筆すべきところがない。服部先生はこの作品で何を書きたかったのだろうか。

今邑彩『いつもの朝に』

いつもの朝にいつもの朝に
今邑 彩

集英社 2006-03
売り上げランキング : 246760
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ブロンテ姉妹と永井路子女史を別格としたら、彼女はいちばん好きな女性作家かもしれない。この作品、評判が非常に良いので期待して読んだんですが 最 高 でした。今までの今邑彩のミステリらしく二転三転する展開に、兄弟の相克と家族愛を上手く融合させて最高の読み物へと昇華させている。このひとに泣かされたのは初めてだ。このひとの仕掛ける謎って割とタネが見え易いのですが、それでいて飽きさせることのない展開は本当に良いですね。いやー楽しかった。

2007年07月07日

ジェーン・オースティン『エマ』

エマ〈上〉 (岩波文庫)エマ〈上〉 (岩波文庫)
ジェーン オースティン Jane Austen 工藤 政司

岩波書店 2000-10
売り上げランキング : 50378
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
一度は読んでみたかったオースティン、ブロンテ全集を読んでいるときにシャーロットの『オースティン批判』にぶつかったので良い機会だと読んでみました。


数年前の映画化の際にあらすじを耳に挟んでいたので予備知識はあったつもりなんですが、実際読み進めてこれほど宣伝文句と内容が違う話もないよなぁと思った。エマは確かキューピッド役をつとめるのが好きで自分の色恋なんかは興味がなく他人をくっつけてばかりいると言うことでしたが、実際にあの子がくっつけたのって家庭教師だけじゃないか。それも自分が主張しているだけで周りからは冷ややかに「君の力がなくてもふたりは結ばれたよ」と言われる始末。それでも持ち前のポジティブさ、もうそれ通り越して自己陶酔の域ですが、その前向きさで新しい獲物である作品内最大のエマ被害者ハリエットに牧師をけしかけたり、貴族の坊やを唆してみたり大忙しです。もうホント読んでてハリエットが可哀想になった。あの子はエマの靴に蜂蜜流し込む権利があるよ。エマの帽子にカマキリ3匹置いても許されるよ。エマによるハリエットの受難はもう数え上げたら限がないのですが、やはりハイライトはハリたんがナイトリー氏に恋をしていると知ったときのエマの反応ですね。可愛い妹のように思っている(筈の)ハリエットをけちょんけちょん。「あの方はそんな愚かなことはしない」って友達ならお世辞でも良いから励ましてあげれば良いのにさーいやはや本当にエマは面白い娘だ。近くにいたら厄介だけど友達の友達くらいのポジションだったらいても良い。愛される主人公と言うよりはむしろ普通の恋愛小説なら鬱陶しいライバルの位置にいそうなエマですが、ずっと読んでいると愛着がわくのも事実。読み終えて何度も反芻し、エマの良さを堪能しています。


ちなみにこの物語に出てくる男性はほぼダメンズばかりで唯一まともな言動をしていたナイトリー氏に尊敬の念を寄せていたのですが、ラストで彼がエマが13歳のときに見初めてからずっと愛していたという告白をしてますます惚れ直しました。格好良いぜロリコン野郎(誉め言葉) まぁ結局まともでない男性はいなくなりましたけどね。

2007年07月01日

伊坂幸太郎『砂漠』

砂漠砂漠
伊坂 幸太郎

実業之日本社 2005-12-10
売り上げランキング : 15515
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
青春小説という言葉がピッタリの1冊。感情の起伏の幅が狭い主人公北村が個性炸裂の西島や東堂たちと接していくことで段々と変わっていくところもすごく好き。伊坂作品で初めて世知辛い気持ちにならずに読めた。物語の芯にあるのが『元ホストで今チンピラの三下との対決』というのはちょっとスケールが小さいけれど、そのスケールを北村とその仲間が大きく感じさせているから読んでいるこちら側は世界を分ける大戦争でも見ているかの気分にさせられるので文句はない。とにもかくにも「若いって良いなぁ」と思わせる作品です。大学生に戻りたい。

2007年06月30日

伊坂幸太郎 『魔王』

魔王魔王
伊坂 幸太郎

講談社 2005-10-20
売り上げランキング : 17966
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
『魔王』『呼吸』の2編収録ですが実質的にはひとつの物語と考えて良い作品。『魔王』主人公の安藤が口癖のように言う「考えろ考えろ」という痛烈なメッセージとカリスマ的な魅力を備えた犬養という政治家の強い主張から風刺文学とかそういった捉え方をされている気がしますが、ワタシは安藤と潤也君の互いを思う兄弟愛にちょっと感動してしまった。安藤が死ぬ直前に潤也君にはこれから幸せなことがあって良いんじゃないかと空に問い掛けるくだりや『呼吸』で潤也君が死んだくらいで兄貴は俺を見放さないって言うくだりがもう堪らなかった。『重力ピエロ』の泉水と春も良かったけれど、ワタシはこの兄弟の方が好きだ。これ続編出来そうな感じなんですけどないのかなぁ。


あとこの話って『犬養=魔王』で、それに気付いているのが安藤だけという感じで物語が進んでいくんだと思うんですが、肝心の犬養と安藤は1度も言葉を交わしてないんだね。それどころか犬養は安藤のことを知らない。真実に気付いても個人も力じゃどうにも出来ない無力さを感じて、ちょっとそこだけはアンニュイでした。


ちなみにこれ今『週間サンデー』で設定を高校生に変えたものが連載されてますが結構面白いです。原作読んでると特に面白いのでマンが読んでる方も原作は読んだ方が良いと思います。お節介。

2007年06月29日

伊坂幸太郎『重力ピエロ』

重力ピエロ重力ピエロ
伊坂 幸太郎

新潮社 2006-06
売り上げランキング : 1289
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
重いバックグラウンド背負っている子はいるし、胸糞悪いヤツもいるし、明らかなハッピーエンドってでもなかったのに読後に感じたいちばんの感想は「良い話だったなぁ」でした。兄弟ものといえばまず相克関係なふたりが浮かぶワタシにとって泉水と春のやり取りは最高に心和んだよ。春はもちろん良い子だけど泉水超良いお兄ちゃんだ。良いお兄ちゃん過ぎて道を踏み外しそうなところがまた良かった。お父さんもお母さんも素敵だったし、素晴らしいひとたちってのはこういう風に何気ない日常を謳歌していきているんだろうなぁ。この家族のシーンだけは本当に癒された。心から癒されたよ。


結末に関しては決して良いことをしたとは言えないんだけど、それでも誰かが(基本的にこの件に関する被害者兼加害者は春だから春かな)救われたのなら良いのかもと思った。法律も神も救ってくれないなら自分で自分を救わなければならないのが今の世の中かもしれないしね。この話、そういう視点で読むと切なくて死にたくなる、のでワタシは家族愛に浸って読むよ。

2007年06月28日

漆原友紀『蟲師』

蟲師 (5)蟲師 (5)
漆原 友紀

講談社 2004-10-22
売り上げランキング :
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ちょっと前にアニメでやってて気になってはいたんですが買うほどでもないと思っていたので旅先のホテルにあったこれをここぞとばかりに読破。旅行先でやることじゃないね。でもなかなか面白かったです。イメージ的には波津先生の『雨柳堂〜』っぽいのかと思ってたらそうでもなくて、主人公のギンコは見た目よりもずっと泥臭い人間(?)で話はめでたしめでたしで終わらないものが多くて読みながら軽く鬱になった。既に世界が構築されている場合、たとえそれが不幸としか言いようのない形でも壊されることは決して幸福じゃないんだということを見せ付けるような橋から落ちた女の子の話や毎日死んで生き返る女の子の話は本当に切ない。やっぱハッピーエンドが良いですよ。なので錆の女の子の話は好きだった。時間が足りなくて5巻までしか読めなかったので、今度機会を見て残りも読みたい。ところでギンコは言われているようにワンピースのサンジにそっくりですね。サンジスキーなのでギンコも好きです。

2007年06月26日

横山秀夫『陰の季節』

陰の季節陰の季節
横山 秀夫

文藝春秋 2001-10
売り上げランキング : 10307
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
『半落ち』がイマイチだったのであまり期待せずに読んだんですが、これは面白かった。いやぁこのひと短編の方が向いてるんじゃないの。警察は警察でも管理部門のひとに焦点を当てた4つの作品はどれもスッキリとしていて読み易かった。何て言うか、こう中間管理職の哀愁がね、もう堪らない。後味が良いとは言えない話ばっかりだったけど、妙に清々しい諦観が個人的には気に入りました。あと全編通して出てくる二渡さんが本人視点と他人視点では別人のように見えたのが面白い。格好良く見えても中の人はいっぱいいっぱいなんだなーとちょっと微笑ましくなった。所詮ワタシはミーハーだ。

2007年06月24日

伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

オーデュボンの祈りオーデュボンの祈り
伊坂 幸太郎

新潮社 2003-11
売り上げランキング : 252
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
地図に載っていない島、喋るカカシ、嘘しか言わない絵描き、死刑執行人。冒頭部分で出てくるこのキーワードだけ見てどんな中2病設定なファンタジーかと思ったが、実際は読めば読むほど世知辛い現実が待ち受けているミステリーでした。そして非常に良く出来ている。未来を告げる神秘的なカカシが何故自分の死を予見出来なかったのかという謎を主人公がといたシーンは最高。とは言えその動機を考えて、ちょっとブルーにさせられた。伊坂先生好きだけど、ホント読む度世知辛い気持ちになるんだよ!


しかしラストで城山が桜にボコられるところにはスッキリしたなぁ。正直このシーンのために桜の『善悪には頓着しない』設定があるのかと思ったくらいだ。相変わらず話運びは上手く、会話も軽快さが気持ち良いので一気に読めました。

2007年06月23日

エミリ・ブロンテ『嵐が丘』

嵐が丘(上)嵐が丘(上)
エミリー・ブロンテ 河島 弘美

岩波書店 2004-02-19
売り上げランキング : 206541
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ブロンテ姉妹ラストになってしまったエミリ。一般的にはこれがいちばん高評価らしいですね。確かに畳み掛けるような展開と描写にはものすごい臨場感を感じた。エミリすごい。シャーロットやアンが割とエンジンのかかりの遅い物語展開だとしたらエミリは即全開、そのまま終盤までフルスロットルで息切れ無しって感じ。ま、前半のキャサリン死去までに比べると後半は盛り上げ役がヒースクリフしかいなかったせいか温い気はしましたけど。でも始めっから終わりまで読者を掴んで放さない物語の濃さには恐れ入った。 前に読んだときは「ヒースクリフあぶねぇなー」くらいの印象しかなかったんですが、今読むと怖いのはキャサリンだ。ヒースクリフはただのドM。自分にしか分からない価値観でヒースクリフではなくエドガーと結婚し、それでもヒースクリフを昔同様に愛して奴等を仲違いさせた挙句、「2人が私を追い詰めて殺すんだわ」と訳の分からない錯乱を起こし男共を恐慌状態に陥れる。もう最高だ。こういう女に人生滅茶苦茶にされてみたい。うん、嘘。 なんにせよキャサリンのキレっぷりとイザベラの転落ぶりは一度は見ておくべきだと思いますよ。あ、あとヒースクリフの息子の腐れっぷりもだ。アイツは豆腐の角で頭ぶつけて死ぬタイプ。

服部まゆみ『一八八八 切り裂きジャック』

一八八八切り裂きジャック一八八八切り裂きジャック
服部 まゆみ

角川書店 2002-03
売り上げランキング : 93876

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
これもゆずさんのオススメ。「切り裂きジャック」ものですが、リアルタイムな英国で語り手が日本人というのはちょっと新鮮で面白かった。ただ彼は異邦人という意識が強いせいか事件へののめり込みが足らなくて、読んでるこちらはヤキモキしましたよ。なので事件の謎を解き明かすと言うよりも事件の起きている現場で恋に自分におろおろしてる留学生の自分探しって感じですね。こういうの大好きですけど。そして友人鷹原の超人振りが凄くて笑ってしまった。駄目な語り部柏木を補うため事件に深く関わらせようとしたからこんな感じになったんでしょうけど、ここまでスーパーマンだといっそ清々しくて憧れる。ラブ。

2007年06月21日

高橋たか子『誘惑者』

誘惑者誘惑者
高橋 たか子

講談社 1995-11
売り上げランキング : 687136
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ひょんなことから過去の自殺者について調べ始めてしまい行き着いたのがこの本。かの有名な三原山連鎖自殺の端緒となった2人の女学生、彼女らに付き添った少女を主人公に据えた名作です。多少の設定は変えているものの実際に起こった出来事はほぼそのままに1人目の自殺の前から始まって2人目が死ぬまでを主人公視点でねっとりと描き出しています。もうとにかく主人公の友人2人が怖い。主人公の淡々とした視点も怖いけど、自分が死ぬために主人公を利用しなければいられないその一本気な少女特有のナルシズムがホント怖かった。特に1人目はそんな自分のナルシズムに翻弄されながらも主人公が救ってくれないことに「あたしはあなたのせいで死ぬ」と言い切っちゃうんだから傲慢だよなぁ。でもそんな自己愛に満ちた親友2人の死を受け止めて山を降りていく主人公がやっぱりいちばん怖いのかもしれない。高橋女史の筆でこの主人公の行く末を見たかったな。多分実際とは違うことになってるんだと思う。

2007年06月19日

シャーロット・ブロンテ『ヴィレット』

ヴィレットヴィレット
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 青山 誠子

みすず書房 1995-06
売り上げランキング : 447576

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ついにシャーロットを読み終えた。ああああ、今とっても淋しい。可愛らしい8歳ポーリーナの言葉を借りるなら「シャーロット、あたち、あなたのこととても好きよ!」って叫びたいくらいシャーロットが大好きな自分に気付いてもう何て言うか感無量。『ヴィレット』はシャーロットが書き終えた最後の完結小説になるのですが、これがまた『教授』『ジェイン・エア』そして『シャーリー』ときて最後を締め括るのに相応しい素晴らしい小説でした。『ジェイン・エア』でさえ泣かなかったのに、『ヴィレット』の最後では軽く涙が出たよ。マジで。自己洞察の冷静さに措いて姉は妹(アン)に劣ると言ったあの言葉を撤回したい。『ヴィレット』におけるルーシーの描写は本当に、読んでいるこちらの心が凍るんじゃないかと言うほど、冷徹で容赦がなかった。

ベルギーのブリュッセルをモデルにした架空の都市ヴィレットで、天涯孤独な中産階級の娘、ルーシー・スノウが生きて悩み恋をして絶望しそれを乗り越えていく過程がこの物語の根幹を成している訳ですが、そのくせシャーロットはルーシーをジェインのようなヒロインらしいヒロインには祭り上げていない。ルーシーが主人公だと知っていたワタシでさえ、冒頭部分を読んだとき彼女は同名の別人かもしくはこの先に急展開があって性格が変わってしまうに違いないと思ったくらいだ。それくらいルーシーの観察眼は自己ではなく他人に向いていて、彼女を通して描き出される様々な人々は生き生きと輝いていた。何て言うかもう、堪らない。これはシャーロットの書いた小説の中でもいちばん自伝的要素が濃いと言われていますが、もし彼女がそのつもりでこれを書いていたのならこの物語における主人公でありながらの脇役感は彼女自身がそれを強く感じていたためなのかなぁと思って切ない気持ちになってしまうのですよ。だから正直ルーシーとムッシュ・エマニュエルの間に、方向性はともかく、特別な絆のようなものが見えたときは嬉しくなった。シャーロットは『ジェイン・エア』以降ロマンチシズムを前面に押し出したものを書くのは気が進まなかったようですが、彼女の恋に悩む男女の描写には物凄く惹き付けられるものがあるのでムッシュとの関係に揺れ動くルーシーを眺めているのはとても楽しかった。まさか終わりがあんなことになるとは予想してなかったけど。あのラストは書き手だけが持ち得る力を存分に発揮された気がした。もっともっとシャーロットにはたくさんの作品を書いて欲しかったよ。

2007年06月15日

シャーロット・ブロンテ『教授』

教授教授
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 海老根 宏

みすず書房 1995-12
売り上げランキング : 455262

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
シャーロットの死後発表された遺作にして処女作品。しかしなかなかどうして面白かった。語り手であるクリムズワースは男性ではあるけれどシャーロットの書く主人公らしい気難しさと「ある特別の精神」を持っているし、何があっても冷静沈着を友とすることを信条にしている辺りはワタシの可愛いジェインと同じ血を感じる。ワタシの目から見るとちょっと偏屈でうざったそうなこの主人公を「美人ではないが賢い」(これもお得意だ)フランシスが心底愛するようになるってのはとてもシャーロットらしい。クリムズワースがフランシスを探して街を探し回り、墓場で漸く出会えるシーンは堪らなく良かった。

ただ先に『ジェイン・エア』や『シャーリー』を読んでしまった身からするとこの作品は彼女らしい地に足のついた描写、特に恋愛以外の面で発揮される精密さ、が欠けてるかなと思った。特に最期のクリムズワースとフランシスが結婚して一財産を築きイギリスに渡るまでの描写がそこに至るまでの過程とは比べようもないくらい大雑把。それなら結婚するところで止めとく方がらしいのにな、と思った。まぁそういう構成の面も含めて初めて書いた小説っていうのはしっくりきた。タイトルが『教授』であることから考えてこっちの方がよりシャーロットの心情が深く反映されているのかもしれない。


そうそう、この『教授』には未完の作品『エマ』『ウィリー・エリン』が収録されているんですが、これがまた続きの気になる興味深い作品なんですよ。文章量的にもまだプロット段階っぽいこの話を完全な形で読めなかったことが非常に悲しい。美味しいデザートを見せるだけで引っ込められたような気持ちになった。

2007年06月13日

八木 教広『CLAYMORE 』

CLAYMORE 1 (1)CLAYMORE 1 (1)
八木 教広

集英社 2002-01
売り上げランキング : 100
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
弟がアニメを気に入って買ってきたので読ませてもらいました。今週の頭くらいからチョビチョビ読んではいたんですが、休みに入ってようやく12巻まで読み終えました。女の子大好きなワタシにとっては出てくる登場人物の8割が女の子という天国のようなマンガです。そして結構容赦無い。ここはガチ!って感じの女の子以外は皆死ぬ。もうバタバタ死ぬ。ワタシのお気に入りもどんどん死んだ。大雑把な物言いですがクレイモアが女の子しかなれないっていう設定がもうなんというか堪らないのだと思う。これが男だったら戦って死ぬというのはある種王道というか、まぁ仕方ないよなという気持ちになるのだが女の子だからなぁ。それも皆少女と言って良い外見なのでなんでこんな娘たちを戦わせにゃならんのだという仄かな憤りも生まれてしまって、しかもそこに萌えてしまうのだからワタシも業が深い。 この話の何とも言えないもどかしさは他にもあって、主人公クレアが追う仇とも言える人物がラスボスではないのですよ。ついでにクレア弱いし。確かに主人公補正は掛かっているけどそれはワタシが読み手だからそう思えるのであって、物語上はクレアは弱くて役に立たないし仇と狙う一本角の化け物は最強じゃない。物語の中心に主人公がいるのではなく、物語の中に主人公が取り込まれている、このパターンはなかなか深くて良いと思いました。まだ連載途中だけど終わりがどういう形になるのかとても興味深いマンガですね。

しかしこのマンガを掲載している月刊ジャンプが廃刊で週刊の方に移るらしいんですが、正直このカラーは週刊に合わないだろう。週ジャン化するクレイモアなんて見たくないし、このままいって打ち切られようものならこの美しい世界観を途中で途切れさせることになってしまうよ。今更ながらファンの嘆きが理解出来てワタシも悲しい。

2007年06月11日

シャーロット・ブロンテ『シャーリー』

シャーリーシャーリー
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 都留 信夫

みすず書房 1996-08
売り上げランキング : 383900

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
アンから再びシャーロットへ。『ジェイン・エア』の次に出されたこの作品は今までのもの(アンも含めて)と勝手が違い過ぎて最初ちょっと戸惑いました。今までの1人称に変えて3人称を、語り手であった主人公は冒頭どころか300ページ近くまで出てこない、おかげでヒロインのシャーリーが出てくるより先にワタシの心はその友人である可愛らしいケアリ(キャロライン)にぞっこんです。ケアリ可愛いよケアリ。あんな打算男のロバートなんかにお前は渡せねぇとかもう気分は既に父。とは言えケアリはロバートに恋をし過ぎて死に掛けるので、この恋が報われなかったらワタシ泣いてたでしょう。ロバート・ムアは個人的には気に入らないけど、ラストのケアリを背後から抱き締めるシーンは予想外で良かった。

物語的には男の世界(唯物的)と女の世界(唯心的)なものの同時進行という感じで、その両側に自分の領域を持つ女伯爵のシャーリー・キールダーを軸に時代の動きと彼女の住むフィールドヘッドを巡る動きがあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら一つの流れに収束し、収まるべきところに収まった感があって良かった。ただひとつ、物語自体の経過時間が短いことがちょっと不満でしたが、読み応えのある時代のワンシーンを綿密に書き切ったシャーロットには脱帽。シャーリーとキャロライン、全くタイプの違う女性をそれぞれのらしい在り方で一個性としての強い女性を書いたのも興味深かったです。

ケアリについては前述の通りですが、一応ヒロインについても一言。シャーリーの気難しさは『ジェイン・エア』のロチェスターをより進化させたようで終盤彼女が誰を愛しているのかが分かった後も本当にこのふたりは結婚するのだろうかと思わされる不可解さに満ちていた。まぁ相手がそんなシャーリーに詰られながら屈服させたいとか言ってる変態なのでお似合いだと思いますが割と感情移入のし難い女性だったかな。これはもしかしたら冒頭でシャーロット自身が『ジェイン・エア』のようなロマンスは期待しない方がいい、と言ったそのことにも起因しているのかもしれない。ロマンスよりもリアリズムをより前面に押し出して書こうとした彼女の試みは決して悪くないけれどラストでダダ漏れになるロマンチシズムが彼女を堪らなく可愛く思わせてしまう。シャーロット大好きー

2007年06月10日

えすのサカエ『未来日記』

未来日記 (1)未来日記 (1)
えすの サカエ

角川書店 2006-07
売り上げランキング : 6049
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ネットの評判とサイトの立ち読みに興味を惹かれて購入。いやぁ、ヒロイン由乃の破壊力が思った以上で参りましたよ。何だこのクレイジーガールは。狂信的なほどの雪輝への愛と彼以外への無関心振りにワタシが由乃に惚れそうです。恋に一直線な乙女は大変可愛らしいものですが、彼女のそれは愛情を向けられる本人にとっては恐怖以外の何物でもないと思うと報われない彼女が可哀想だなぁと思ってしまう程度には由乃が大好きです。とはいえ自分が雪輝の立場になりたいかといえばそれは願い下げですが(チキン) 10分おきに観察日記つけられるほどの愛情は持て余しちゃうよなーでも由乃のキレっぷりは傍から見ていると本当に可愛くて応援したくなるので熱意のこもった目で見つめていたい。 そんな由乃への愛ばかりが先走りそうになるこの『未来日記』ですが、ストーリーもなかなか面白くて続きが気になります。最終的に残るのは雪輝と由乃になるのかな。個人的には4thのひとの内面にドロドロしたものがあってくれると良いなぁと思ってます。ただの良いひとでは終わらないと思ってるけど。

2007年06月09日

アン・ブロンテ『ワイルドフェル・ホールの住人』

ワイルドフェル・ホールの住人ワイルドフェル・ホールの住人
アン ブロンテ Anne Bront¨e 山口 弘恵

みすず書房 1996-02
売り上げランキング : 821033

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
『アグネス・グレイ』に心臓打ち抜かれた勢いでもう一つのアン作品である『ワイルドフェル・ホールの住人』へ突入。こちらは600ページ超の長編でかなり読み応えでしたが、飽きさせない展開にもう夢中になって読んでました。アンのリアリズムは『アグネス・グレイ』で厭と言うほど理解していたんですけどこちらはそれ以上だな。行間から「馬鹿は一生馬鹿」「馬鹿に悔い改めるという言葉は無い」という彼女の主張が滲み出てくるような、ヒロインであるヘレンの夫ハンディンドン氏に対する描写が特に凄い。これでもかこれでもかというほど彼の愚行を書き連ね、最後の最後まで彼を悔い改めさせようとはしない残酷なほどの現実。どこまでも冷静に書き進めるアンを想像して背筋がぞくぞくしちゃいましたよ。ところでこのハンディントン氏の最期、ヘレンがどれほど熱心に神への祈りを勧めてもそれを受け容れようとしない無理解さに芥川の『六の宮の姫君』を思い出した。どちらも周りがどれだけ訴えても本人にその意思が無いのだから無駄だなという思いにさせられる話だ。 とは言えハンディントン氏とヘレンの出来事はこの長い話のほんの一幕でしかなく(ある種重大な一幕ではあるが)、ハンディントン氏の死によって主人公ギルバートが何でヘレンと結ばれたのかはかなり不思議。氏ほど酷くはないけれどギルバートだって大した男じゃない気がするけどなーもうひとりの求婚者とどう違うのか正直ワタシには分からなかったよ。まぁ締めが「みんな幸せに暮らしました」なので良しとしよう。 しかしアグネスにしろヘレンにしろアンの書くヒロインの頑固さにはホントビックリさせられる。アンはそんな感じだったのかなぁ。もっと彼女の作品を読んでみたかった。29歳なんて若過ぎるよ。

2007年06月05日

アン・ブロンテ『アグネス・グレイ』

アグネス・グレイアグネス・グレイ
アン ブロンテ Anne Bront¨e 鮎沢 乗光

みすず書房 1995-08
売り上げランキング : 599860

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
『ジェイン・エア』に触発されてブロンテ全集を読むことにしました。『ジェイン・エア』と『嵐が丘』以外は手軽に手に入るものではないので図書館で入手。成り行きでまずは末の妹アンの『アグネス・グレイ』から。シャーロットとエミリ程有名ではない彼女の作品に関しては姉妹という括りで全集に入っているのだとばかり思っていましたがとんでもない。度肝を抜かれた。 主人公であるアグネスが家庭教師であるというところは姉の作品と同じであるものの、ジェインが教え子であるアデールと十分な信頼関係を築き上げていたとは正反対にアグネスは雇い主である両親からも教え子である子供たちからも不当なほど蔑まれ、あまつさえ召使にさえも馬鹿にされてしまう。当時の家庭教師という存在がどれほど不当な扱いを受けていたのかがよく分かります。1軒目の時点でもう読んでるこちらはムカムカして仕方がないのにアンは手を緩めずこれでもかこれでもかという酷い仕打ちの数々を連ね上げる。ラストがウェストン氏のプロポーズで本当に良かった。これでアグネスの恋が報われなかったらこの世には神も仏もないのかと思わされるところだ。ハッピーエンドにこんなにホッとしたのも久しぶりでした。 それにしても自身も家庭教師を勤めていたアンのこと、これは半分アンの自伝みたいなものだと思うのですが、だとしたらここまで惨めに自己を見つめて描写する冷静さと観察眼は脅威だ。『ジェイン・エア』にはロチェスター氏への想いと自己の規律で悩み己を叱咤する描写はあれど、アグネスのように不当な仕打ちでプライドを粉々にされるようなことは無い。そんな筆にするのも腹立たしい出来事をひとつひとつ丁寧に書くアンは表現者としての冷静さと描写のリアリティさにおいて姉を上回っていると思いました。ただアグネスが心情を吐露する際、必要以上に己を卑下するところなんかはちょっと姉のシャーロットを彷彿とさせたかな。イヤもうとにかく良かった。ブロンテ姉妹は最高だ。

2007年06月03日

シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』

ジェイン・エア(上)ジェイン・エア(上)
C・ブロンテ 小尾 芙佐

光文社 2006-11-09
売り上げランキング : 64434
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
久々に読み返し。何回読んでも面白いとは分かっているけど本当に面白い。初めて読んだときはロチェスター氏の妻が都合良く死んでしまったことにどうにも納得のいかないものを抱えていたけれど、今となってみればそうせざるを得なかったシャーロットの気持ちが分かり過ぎてむしろこれで良かったのだという気持ちにさせられた。それにたとえそういったロマンチシズムがラストで全開になろうとも全編を通して伝わるジェインの注意深さ、ある種臆病さは大変に可愛らしいものだし理解出来るので最後くらい華々しく浸らせてやれよーという気持ちが強くなったことも否定出来ない。ワタシも歳をとったものだ。

それにしても落ち込むジェインをロチェスター氏が慰める(?)くだり、「ひどいしょげようだ、すこし何か言うと涙ぐむほどーほら、もう、いっぱいたまって光ってますよ。まつ毛から一滴こぼれて、床に落ちたじゃないですか。」がもう堪らない。ロチェスター貴様ドSだなって罵ってやりたいくらいだ。でも涙ぐむジェインを見たらワタシもそんな気になるのかもしれない。『ジェイン・エア』にはこういった名場面が多過ぎてホント困る。今のところ唯一原書で読んだ本だけあるわ。

2007年05月27日

伊坂幸太郎『ラッシュライフ』/ 恩田陸『ドミノ』

ラッシュライフラッシュライフ
伊坂 幸太郎

新潮社 2005-04
売り上げランキング : 4552
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ドミノドミノ
恩田 陸

角川書店 2004-01
売り上げランキング : 54885
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ゆずさんに「何か面白いの貸してー」と頼んだら出てきたのが『ラッシュライフ』、今日漸く読み終わって真っ先に浮かんだのが恩田陸先生の『ドミノ』でした。一見関わりなんて無さそうな暮らしをしているひとたちが実は何処かで繋がっていて直接的にも間接的にも影響を与え合っているその瞬間を神の視点で眺められるこういう語は大好き。映画でいえば『マグノリア』みたいなやつ。なので大変楽しく読ませて頂きました。しかし『ドミノ』がどちらかといえば非現実的な展開で蛙が降って来てもおかしくないのに対し、『ラッシュライフ』はひとりひとりの人生が重いですね。何て言うか、こう、世知辛い。ラストにちょっとした救いを示唆させるものはあったものの、『最後はみんな幸せになりました、めでたしめでたし』じゃないところがハッピーエンドを愛するワタシとしてはちょっと悲しくもありそれだけにズンとくるなぁという感じ。ま、京子さん辺りは自業自得の感もあるけど、こういう女の人って憎めないんだよねぇ。

伊坂幸太郎というひとの作品は初めて読んだのですが、割と読みやすくて良かったので他のにも手を出してみようかな。でもその前にもう1回『ドミノ』読もう。あのラストの爽快感は他の恩田作品には感じられないものでした。イヤ、恩田先生大好きだけど。

2007年05月26日

横山秀夫『半落ち』

半落ち半落ち
横山 秀夫

講談社 2005-09
売り上げランキング : 14921
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
映画にもなったベストセラー作品。家にあったので読んでみましたが期待したほど良い話ではなかったかな。映画の宣伝とかだと『アルツハイマーの妻を殺した刑事の自首までの2日間を追う』といった煽り方をされていたような気がしたのでてっきり刑事と妻の間に何がしかの秘密があってそれを誰かが探り出すのかと思ってました。ところが蓋を開けてみたら妻関係無いし。メチャクチャ自分のことばかりじゃないか!と軽く憤ってしまいましたよ。イヤそれ自体は別に腹が立たないと言うか、妻を殺して自分も死ぬ、的な自殺の理由に他人を利用する方が厭な感じなので構わないのですが、周りの人間の反応がね、解せないんですよ。まぁ秘密を隠し持っているから探ろうというところは良い。けどその後での皆が皆「アイツのことはそっとしておけ」っぽい空気になっているのがどうも何だかなーと。元々梶刑事というひとはとても良いひとで殺人も病気に苦しむ妻を楽にしてやるためだから臨んで殺した訳ではないというのは理解出来るけど、だからってあそこまでするかなー特に志木刑事。出てくるひとが皆善人過ぎるような気がしましたよ。 あと視点となる登場人物がころころ変わるのもちょっと物語に入り込めなくて困った。視点となっている間は梶刑事探る気満々なのに、他の人にバトンタッチした途端「そっとしておけ」はないだろう。視点間の繋ぎで同一性が薄いような気がしたのも登場人物に感情移入してのめりこむワタシには合わなかったのかも。もうちょっと梶刑事について丹念に書いてくれれば良かったのにと、そういう意味ではとても惜しい作品でした。他の作品はどうなんだろう、家にあったので今度読んでみます。

2006年10月21日

高村薫『李歐』

4062630117李歐
高村 薫
講談社 1999-02

by G-Tools
ガチホモだ、という話はきいてたので心の準備は出来ていましたが本当にそうで驚いた。いきなり現れて「惚れた?」って言う人間、一彰が女でも引くだろうとつい素で考えてしまったためか最初の方はうまく物語りに入り込めなかった。だって全体に流れる雰囲気は重いのに一彰が李歐を語るときに描写が無駄に詩的になるものだから笑ってしまう。しかし李歐は一彰のどこが気に入ったのかは最後までよく分からなかったなぁ。あと咲子の存在があまりにも可哀想だった。物語的には楽しめたんだけど、結局幸せになったのが一彰と李歐ってのがなー多数の屍の下にある幸福って仕方ないとは言え全面肯定で受け入れられるものじゃないよね。そんな不満分を差し引いてもこの壮大さには打ちのめされるくらい良かったです。

2006年10月04日

高村薫『地を這う虫』

4167616017地を這う虫
高村 薫
文藝春秋 1999-05

by G-Tools
短編集。読み終えてまず思ったことは浅田次郎の短編に世知辛さを加えたらこうなるのかな、ということ。何かもう出てくるひと出てくるひと切ないほど不器用なんだもの。しかしそれだけにどの物語の主人公にもすんなりなじめた。いちばん好みだったのは『巡り合う人々』ですね。こういう偶然は好きだ。

2006年09月29日

高村薫『マークスの山』

4062734915マークスの山(上) 講談社文庫
高村 薫
講談社 2003-01-25

by G-Tools
直木賞受賞作品。ワタシが女史の名前を知ることになった作品でもありますが、読んでみてこれほど予想と違う作品も珍しいと思った。まぁそれは彼女の作品に冠せられた『超硬派』というレッテルと適当なこと言うあらすじのせいだ。

とにかく終盤のマークスを追うシーンがとても良い。そこに至るまでの過程についてはやけに冗長で合田刑事の過去とかどうでも良いじゃねぇかとか思ったけど、ラストの盛り上がりは大層楽しめましたよ。あんな形で終わるとは思ってなかったけど、これ推理小説じゃないからそんなものか。ただ人物関係がちょっとばかり無駄に絡み合い過ぎてたのでその辺もうちょっとスッキリさせてマークスと合田刑事の輪郭を浮き立たせてくれたら最後の追跡劇がもっと格好良いものになったんじゃないのかなぁ。でも楽しく読めたので良いです。

2006年09月09日

高村薫『黄金を抱いて翔べ』

4101347115黄金を抱いて翔べ
高村 薫
新潮社 1994-01

by G-Tools
とあるサイトさんで高村女史について触れられていたくだりに妙に惹かれて読んでみました。高村薫と言えば『マークスの山』くらいしか知らず、それさえ世間の超硬派小説という評を鵜呑みにしていたワタシはこれを読んで大層驚かされることになりましたよ。うん、何て言うか、お仲間?みたいな気持ち。もちろん物語的にはあっという間に読み終えてしまったことからも申し分のない面白さだったんだけど、超硬派と言われる割には随分とセンチメンタルな展開じゃないですか。ふたりがくっつく必然性なんてあんまりなかったのにそうしないではいられなかった高村先生の情緒的な部分に正直萌えました。うん、先生にね。ずっととっつきにくい委員長タイプだと思っていた女の子がふと見せた可愛らしさに気付いてしまったようなそんな感じで嬉しい。見た目のイメージと世間様の『超!硬派』からものすごく硬い文章のひとかと思って敬遠していた自分が馬鹿みたい。もっと読まなくちゃ。

気付いたら全然ストーリーについて触れていませんが面白かったですよ。登場人物の生き方が地べたを這うような生々しい感じで読んでて鬱になるくらいに、枝葉の部分が登場人物の姿を眼前に押し付けすぎて困るくらいに物語の世界に入り込めました。

2006年06月12日

恩田陸『クレオパトラの夢』

4575234834クレオパトラの夢
恩田 陸
双葉社 2003-10

by G-Tools
『MAZE』の魅力的な脇役(?)神原恵弥を主人公に据えたミステリー。前作のような不可思議さは鳴りを潜め、どっちかって言うと『政府の陰謀』っぽい日本的な推理小説になっている気がする。『MAZE』でのバッサバッサ切るようなメグミの語り口調が気に入っていたので読んだのですが、物語としては普通でしたね。そして前作に比べて登場人物のアクが強いのでメグミの特異さもあんまり目立っていなかった。でもやっぱりメグミが好きな人は読んだ方が良い。そんな話でした。

2006年06月08日

恩田陸『三月は深き紅の淵を』

4062648806三月は深き紅の淵を
恩田 陸
講談社 2001-07

by G-Tools
『三月は深き紅の淵を』というタイトルの本にまつわる中編4つからなる物語。本好きの本好きによる本好きのための本、という形容詞がピッタリの本ですね。何しろ中編ひとつひとつがとてもよく出来ていている上に核となる謎「『三月は深き紅の淵を』の正体は?」について複数の答えを提示したまま終わっているのだから。うん、何て言うか『読者』でいることの幸福感を実感できる本ですよ。各中編の主人公たちが掴んだ『三月は深き紅の淵を』の正体のどれが本当なのかをついつい考えてしまったり、文中に散りばめられている本のタイトルに胸をときめかせたり出来るんですから。『チョコレート工場の秘密』なんて本当今すぐにでも読みたいと思ってしまいましたよ。恩田先生がすごいなぁと思うところのひとつはこれだ。

恩田陸『MAZE』

4575234079MAZE(めいず)
恩田 陸
双葉社 2001-02

by G-Tools
不思議は不思議で何もおかしいことはない、というスタンスの作品が多い恩田作品にしては珍しく「不思議」のベールが剥がされたような印象を受ける作品でした。ラストに一部後味の悪さがあるものの全体を通して漂う神秘的な空気は嫌いじゃなかった。そしてメグミさんがとても魅力的だった。男のひとも大変ですねぇ。

2006年03月20日

秦建日子『推理小説』

4309407765推理小説
秦 建日子
河出書房新社 2005-12-21

by G-Tools
ドラマ『アンフェア』の原作本。ドラマとは違って瀬崎の連続殺人のみで完結し、蓮見も薫ちゃんも安本たんも小久保も出てこない。そしておそろしくつまらない。既存の推理小説に対するアンチテーゼをやっているつもりなのだろうけど、正直既存の推理小説の上に胡坐を書きながら見下ろして文句言ってるだけのような気がする。作者の方は脚本家らしいですが、どことなく大塚英志スメルを感じた。ドラマは面白いのにねー

2006年02月26日

綾辻行人『暗黒館の殺人』

4061823884暗黒館の殺人 (上)
綾辻 行人
講談社 2004-09-10

by G-Tools
ずいぶん前に出た『館』シリーズの新刊(?)を漸く読みました。読み終わったときの第一声は こんなのアリかよー!! だったのですが、冷静に考えてみれば綾辻が「騙したい」対象は常に読者であり読者を引っ掛ければそれで良いのだからまぁアリなのだろうな。懐かしい『十角館』もそうだったし。しかしそこに思わず突っ込みを入れたくなるのもまぁ感情的には止むを得ないよなーだってこんなの全然フェアじゃない。これが「読者への挑戦状」だったら本投げられて然るべき仕掛けですね、これは。実質的なトリックとかそういうのが何も無い。勘違いの連鎖がトリックのようなものですな。ねぇ、それってミステリ?トリック=ミステリじゃないからミステリだよな。うん、でもねぇ・・・・ と言いつつも夢中になって読んでいたので本自体は面白かったのですよ。ただそんな風に書かれたら普通はそう思うだろうっていうミスリードにまんまと嵌ったのが悔しい。まぁ騙された。


しかし久々に館読んだ所為か、他のも読み返したくなってきたなー

2004年05月27日

京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』

4061822934陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)
京極 夏彦
講談社 2003-08-09

by G-Tools
買ったのは出てすぐだったんですが今までこう手をつけずにいたこの殺人兵器(分厚い) 面白かった・・・・・でも今回ほど犯人が犯人じゃないことを願ったのははじめてかも。なんかこう・・・・死なないでとずっと思ってた。あと榎木津が悪いものでも食べたかのように関口に優しくて吃驚した。木場がやけに爽やかに思えてときめいた。そしてまた『姑獲鳥の夏』から読み直したくなってしまった。今読んだらワタシは榎木津よりも京極に憧れそうだ(どうやら口で遣り込めたい相手がいるらしい)

2000年01月01日

読書メモ

○伊坂幸太郎○
オーデュボンの祈り
ラッシュライフ
陽気なギャングが地球を回す
重力ピエロ
アヒルと鴨のコインロッカー
チルドレン
グラスホッパー
死神の精度
魔王
砂漠
終末のフール
陽気なギャングの日常と襲撃
フィッシュストーリー


○恩田陸○
象と耳鳴り
月の裏側
図書室の海
劫尽童女
蛇行する川のほとり
まひるの月を追いかけて
黄昏の百合の骨
禁じられた楽園
Q&A
夜のピクニック
夏の名残りの薔薇
ユージニア
「恐怖の報酬」日記
蒲公英草紙 常野物語
ネクロポリス
エンドゲーム 常野物語
チョコレートコスモス
中庭の出来事
朝日のようにさわやかに


○服部まゆみ○
時のアラベスク
罪深き緑の夏
時のかたち
黒猫遁走曲
一八八八 切り裂きジャック
ハムレット狂詩曲(ラプソディー)
この闇と光
シメール


○阿部和重○
アメリカの夜
ABC戦争
インディヴィジュアル・プロジェクション
無情の世界
ニッポニアニッポン
シンセミア
グランド・フィナ−レ
プラスティック・ソウル
ミステリアスセッティング


○ジェイン・オースティン○
いつか晴れた日に
高慢と偏見
マンスフィールド・パーク
エマ
ノーサンガー・アベイ

 1 |  2 |  3 |  4 |  5 | 全部