Category : 本/雑誌 のアーカイブ

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伊坂幸太郎『グラスホッパー』

グラスホッパーグラスホッパー
伊坂 幸太郎

角川書店 2004-07-31
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『終末のフール』ほどでは無いけれど結構な鬱度でした。伊坂先生の書く「どうしようもない無力感」に毎度毎度打ちのめされては読んでいるんですが、今回は初っ端からそんなんだったんで最後まで読めないんじゃないかと不安になりましたよ。とにかく鈴木の存在が欝だ。酷い過程で妻を亡くしてその復讐のために入った組織なのにあっさり看破されて殺されそうになって、ワタシならこの時点でもう3回くらい死んでる。そんな鈴木なのに他のメイン人物蝉や鯨を押し退けて最終的に生き残れたのは彼の運と、奥さんが見守っていてくれたんじゃないかなぁ。そう思いたい。最後だけ見ると良かったね鈴木、と言えなくもないんだが過程が重過ぎて、やっぱりワタシは欝になる。鯨がかなり好きだったんですけどね、絶対お近づきにはなりたくない。

2007年07月13日

伊坂幸太郎 『終末のフール』

終末のフール終末のフール
伊坂 幸太郎

集英社 2006-03
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読み終わった日の夜から翌日の昼過ぎまで軽く鬱になってました。何だこの鬱物語は。確かに収録されている小編ひとつひとつのトーンは暗いというよりもむしろ明るくて、中にはこの先に希望を持たせるような終わりのものもある。でもあと3年で世界が滅びるというほぼ確定の絶望感の中でこの明るさは逆に怖いよ。ワタシなんかはこんな状態になったら真っ先に誰かに殺されてそうな人間だけに、ここまで生き残った人間自体がある意味化け物っぽい。この作品世界に存在する前提さえなければ楽しく読めた話なんだろうけど、なんか言いようのない鬱々感にとらわれました。本自体は良かったんですけどねー

2007年07月11日

服部まゆみ『時のアラベスク』

時のアラベスク時のアラベスク
服部 まゆみ

角川書店 1990-11
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今まで気付かなかったんですが、このひと中井英夫リスペクトだったんですね。むしろ『虚無への供物』と言った方が良いのか。虚無リスペクトと言えば竹本さんの『匣の中の失楽』が真っ先に浮かびますが、この『時のアラベスク』はもう役者と舞台を変えただけで全体の雰囲気はまんま虚無だったなぁ。のっぺりとしていてリアリティのない世界が逆に人物ひとりひとりを強烈に浮き上がらせるこの感じが懐かしい。 ただ作品に冠しては本家『虚無』には及ばなかったかな。『切り裂きジャック』でも思ったことですが、語り手の消極性が物語り自体にも悪い影響を与えているようで全体的に散漫な印象を受けてしまうんですよ。犯人が分かった、とか、謎が全て解けた、というときでさえ「ふーん」と軽く受け流して終わってしまう。多分物語から受けるテンションが一貫して低いんだ。素材も世界も良いのにもったいないなぁ。

2007年07月08日

服部まゆみ『罪深き緑の夏』

罪深き緑の夏罪深き緑の夏
服部 まゆみ

角川書店 1991-03
売り上げランキング : 180852
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『切り裂きジャック』が面白かったので期待して読んでみたけどこれは普通だったな。怪しげに佇む洋館、そこに住む美しい兄妹、人々の抱える秘密、とゴシックっぽい空気は十分あって良かったのですが、主人公の淳が『ジャック』の柏木以上にイライラさせてくれたので作品世界に浸りきれずに終わってしまった。それに山崎兄弟の相克や、彼らを囲む人間関係への言及もちょっと中途半端で全体的に消化不良。もうちょっと長ければ良かったのかな、と思ったけどこのネタで長編引っ張るのは難しいかも。話の長さに比して登場人物が多過ぎた感じがしました。それでも淳が一心不乱に壁画を描き上げるシーンはちょっと感動した。駄目な子が必死で頑張ってる姿は何故か心惹かれますね。でもそこくらいしか特筆すべきところがない。服部先生はこの作品で何を書きたかったのだろうか。

今邑彩『いつもの朝に』

いつもの朝にいつもの朝に
今邑 彩

集英社 2006-03
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ブロンテ姉妹と永井路子女史を別格としたら、彼女はいちばん好きな女性作家かもしれない。この作品、評判が非常に良いので期待して読んだんですが 最 高 でした。今までの今邑彩のミステリらしく二転三転する展開に、兄弟の相克と家族愛を上手く融合させて最高の読み物へと昇華させている。このひとに泣かされたのは初めてだ。このひとの仕掛ける謎って割とタネが見え易いのですが、それでいて飽きさせることのない展開は本当に良いですね。いやー楽しかった。

2007年07月07日

ジェーン・オースティン『エマ』

エマ〈上〉 (岩波文庫)エマ〈上〉 (岩波文庫)
ジェーン オースティン Jane Austen 工藤 政司

岩波書店 2000-10
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一度は読んでみたかったオースティン、ブロンテ全集を読んでいるときにシャーロットの『オースティン批判』にぶつかったので良い機会だと読んでみました。


数年前の映画化の際にあらすじを耳に挟んでいたので予備知識はあったつもりなんですが、実際読み進めてこれほど宣伝文句と内容が違う話もないよなぁと思った。エマは確かキューピッド役をつとめるのが好きで自分の色恋なんかは興味がなく他人をくっつけてばかりいると言うことでしたが、実際にあの子がくっつけたのって家庭教師だけじゃないか。それも自分が主張しているだけで周りからは冷ややかに「君の力がなくてもふたりは結ばれたよ」と言われる始末。それでも持ち前のポジティブさ、もうそれ通り越して自己陶酔の域ですが、その前向きさで新しい獲物である作品内最大のエマ被害者ハリエットに牧師をけしかけたり、貴族の坊やを唆してみたり大忙しです。もうホント読んでてハリエットが可哀想になった。あの子はエマの靴に蜂蜜流し込む権利があるよ。エマの帽子にカマキリ3匹置いても許されるよ。エマによるハリエットの受難はもう数え上げたら限がないのですが、やはりハイライトはハリたんがナイトリー氏に恋をしていると知ったときのエマの反応ですね。可愛い妹のように思っている(筈の)ハリエットをけちょんけちょん。「あの方はそんな愚かなことはしない」って友達ならお世辞でも良いから励ましてあげれば良いのにさーいやはや本当にエマは面白い娘だ。近くにいたら厄介だけど友達の友達くらいのポジションだったらいても良い。愛される主人公と言うよりはむしろ普通の恋愛小説なら鬱陶しいライバルの位置にいそうなエマですが、ずっと読んでいると愛着がわくのも事実。読み終えて何度も反芻し、エマの良さを堪能しています。


ちなみにこの物語に出てくる男性はほぼダメンズばかりで唯一まともな言動をしていたナイトリー氏に尊敬の念を寄せていたのですが、ラストで彼がエマが13歳のときに見初めてからずっと愛していたという告白をしてますます惚れ直しました。格好良いぜロリコン野郎(誉め言葉) まぁ結局まともでない男性はいなくなりましたけどね。

2007年07月01日

伊坂幸太郎『砂漠』

砂漠砂漠
伊坂 幸太郎

実業之日本社 2005-12-10
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青春小説という言葉がピッタリの1冊。感情の起伏の幅が狭い主人公北村が個性炸裂の西島や東堂たちと接していくことで段々と変わっていくところもすごく好き。伊坂作品で初めて世知辛い気持ちにならずに読めた。物語の芯にあるのが『元ホストで今チンピラの三下との対決』というのはちょっとスケールが小さいけれど、そのスケールを北村とその仲間が大きく感じさせているから読んでいるこちら側は世界を分ける大戦争でも見ているかの気分にさせられるので文句はない。とにもかくにも「若いって良いなぁ」と思わせる作品です。大学生に戻りたい。

2007年06月30日

伊坂幸太郎 『魔王』

魔王魔王
伊坂 幸太郎

講談社 2005-10-20
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『魔王』『呼吸』の2編収録ですが実質的にはひとつの物語と考えて良い作品。『魔王』主人公の安藤が口癖のように言う「考えろ考えろ」という痛烈なメッセージとカリスマ的な魅力を備えた犬養という政治家の強い主張から風刺文学とかそういった捉え方をされている気がしますが、ワタシは安藤と潤也君の互いを思う兄弟愛にちょっと感動してしまった。安藤が死ぬ直前に潤也君にはこれから幸せなことがあって良いんじゃないかと空に問い掛けるくだりや『呼吸』で潤也君が死んだくらいで兄貴は俺を見放さないって言うくだりがもう堪らなかった。『重力ピエロ』の泉水と春も良かったけれど、ワタシはこの兄弟の方が好きだ。これ続編出来そうな感じなんですけどないのかなぁ。


あとこの話って『犬養=魔王』で、それに気付いているのが安藤だけという感じで物語が進んでいくんだと思うんですが、肝心の犬養と安藤は1度も言葉を交わしてないんだね。それどころか犬養は安藤のことを知らない。真実に気付いても個人も力じゃどうにも出来ない無力さを感じて、ちょっとそこだけはアンニュイでした。


ちなみにこれ今『週間サンデー』で設定を高校生に変えたものが連載されてますが結構面白いです。原作読んでると特に面白いのでマンが読んでる方も原作は読んだ方が良いと思います。お節介。

2007年06月29日

伊坂幸太郎『重力ピエロ』

重力ピエロ重力ピエロ
伊坂 幸太郎

新潮社 2006-06
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重いバックグラウンド背負っている子はいるし、胸糞悪いヤツもいるし、明らかなハッピーエンドってでもなかったのに読後に感じたいちばんの感想は「良い話だったなぁ」でした。兄弟ものといえばまず相克関係なふたりが浮かぶワタシにとって泉水と春のやり取りは最高に心和んだよ。春はもちろん良い子だけど泉水超良いお兄ちゃんだ。良いお兄ちゃん過ぎて道を踏み外しそうなところがまた良かった。お父さんもお母さんも素敵だったし、素晴らしいひとたちってのはこういう風に何気ない日常を謳歌していきているんだろうなぁ。この家族のシーンだけは本当に癒された。心から癒されたよ。


結末に関しては決して良いことをしたとは言えないんだけど、それでも誰かが(基本的にこの件に関する被害者兼加害者は春だから春かな)救われたのなら良いのかもと思った。法律も神も救ってくれないなら自分で自分を救わなければならないのが今の世の中かもしれないしね。この話、そういう視点で読むと切なくて死にたくなる、のでワタシは家族愛に浸って読むよ。

2007年06月28日

漆原友紀『蟲師』

蟲師 (5)蟲師 (5)
漆原 友紀

講談社 2004-10-22
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ちょっと前にアニメでやってて気になってはいたんですが買うほどでもないと思っていたので旅先のホテルにあったこれをここぞとばかりに読破。旅行先でやることじゃないね。でもなかなか面白かったです。イメージ的には波津先生の『雨柳堂〜』っぽいのかと思ってたらそうでもなくて、主人公のギンコは見た目よりもずっと泥臭い人間(?)で話はめでたしめでたしで終わらないものが多くて読みながら軽く鬱になった。既に世界が構築されている場合、たとえそれが不幸としか言いようのない形でも壊されることは決して幸福じゃないんだということを見せ付けるような橋から落ちた女の子の話や毎日死んで生き返る女の子の話は本当に切ない。やっぱハッピーエンドが良いですよ。なので錆の女の子の話は好きだった。時間が足りなくて5巻までしか読めなかったので、今度機会を見て残りも読みたい。ところでギンコは言われているようにワンピースのサンジにそっくりですね。サンジスキーなのでギンコも好きです。
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