今まで気付かなかったんですが、このひと中井英夫リスペクトだったんですね。むしろ『虚無への供物』と言った方が良いのか。虚無リスペクトと言えば竹本さんの『匣の中の失楽』が真っ先に浮かびますが、この『時のアラベスク』はもう役者と舞台を変えただけで全体の雰囲気はまんま虚無だったなぁ。のっぺりとしていてリアリティのない世界が逆に人物ひとりひとりを強烈に浮き上がらせるこの感じが懐かしい。
ただ作品に冠しては本家『虚無』には及ばなかったかな。『切り裂きジャック』でも思ったことですが、語り手の消極性が物語り自体にも悪い影響を与えているようで全体的に散漫な印象を受けてしまうんですよ。犯人が分かった、とか、謎が全て解けた、というときでさえ「ふーん」と軽く受け流して終わってしまう。多分物語から受けるテンションが一貫して低いんだ。素材も世界も良いのにもったいないなぁ。
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