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2007年06月30日

本/雑誌】 伊坂幸太郎 『魔王』

魔王魔王
伊坂 幸太郎

講談社 2005-10-20
売り上げランキング : 17966
おすすめ平均

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『魔王』『呼吸』の2編収録ですが実質的にはひとつの物語と考えて良い作品。『魔王』主人公の安藤が口癖のように言う「考えろ考えろ」という痛烈なメッセージとカリスマ的な魅力を備えた犬養という政治家の強い主張から風刺文学とかそういった捉え方をされている気がしますが、ワタシは安藤と潤也君の互いを思う兄弟愛にちょっと感動してしまった。安藤が死ぬ直前に潤也君にはこれから幸せなことがあって良いんじゃないかと空に問い掛けるくだりや『呼吸』で潤也君が死んだくらいで兄貴は俺を見放さないって言うくだりがもう堪らなかった。『重力ピエロ』の泉水と春も良かったけれど、ワタシはこの兄弟の方が好きだ。これ続編出来そうな感じなんですけどないのかなぁ。


あとこの話って『犬養=魔王』で、それに気付いているのが安藤だけという感じで物語が進んでいくんだと思うんですが、肝心の犬養と安藤は1度も言葉を交わしてないんだね。それどころか犬養は安藤のことを知らない。真実に気付いても個人も力じゃどうにも出来ない無力さを感じて、ちょっとそこだけはアンニュイでした。


ちなみにこれ今『週間サンデー』で設定を高校生に変えたものが連載されてますが結構面白いです。原作読んでると特に面白いのでマンが読んでる方も原作は読んだ方が良いと思います。お節介。

2007年06月29日

本/雑誌】 伊坂幸太郎『重力ピエロ』

重力ピエロ重力ピエロ
伊坂 幸太郎

新潮社 2006-06
売り上げランキング : 1289
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重いバックグラウンド背負っている子はいるし、胸糞悪いヤツもいるし、明らかなハッピーエンドってでもなかったのに読後に感じたいちばんの感想は「良い話だったなぁ」でした。兄弟ものといえばまず相克関係なふたりが浮かぶワタシにとって泉水と春のやり取りは最高に心和んだよ。春はもちろん良い子だけど泉水超良いお兄ちゃんだ。良いお兄ちゃん過ぎて道を踏み外しそうなところがまた良かった。お父さんもお母さんも素敵だったし、素晴らしいひとたちってのはこういう風に何気ない日常を謳歌していきているんだろうなぁ。この家族のシーンだけは本当に癒された。心から癒されたよ。


結末に関しては決して良いことをしたとは言えないんだけど、それでも誰かが(基本的にこの件に関する被害者兼加害者は春だから春かな)救われたのなら良いのかもと思った。法律も神も救ってくれないなら自分で自分を救わなければならないのが今の世の中かもしれないしね。この話、そういう視点で読むと切なくて死にたくなる、のでワタシは家族愛に浸って読むよ。

2007年06月28日

本/雑誌】 漆原友紀『蟲師』

蟲師 (5)蟲師 (5)
漆原 友紀

講談社 2004-10-22
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ちょっと前にアニメでやってて気になってはいたんですが買うほどでもないと思っていたので旅先のホテルにあったこれをここぞとばかりに読破。旅行先でやることじゃないね。でもなかなか面白かったです。イメージ的には波津先生の『雨柳堂〜』っぽいのかと思ってたらそうでもなくて、主人公のギンコは見た目よりもずっと泥臭い人間(?)で話はめでたしめでたしで終わらないものが多くて読みながら軽く鬱になった。既に世界が構築されている場合、たとえそれが不幸としか言いようのない形でも壊されることは決して幸福じゃないんだということを見せ付けるような橋から落ちた女の子の話や毎日死んで生き返る女の子の話は本当に切ない。やっぱハッピーエンドが良いですよ。なので錆の女の子の話は好きだった。時間が足りなくて5巻までしか読めなかったので、今度機会を見て残りも読みたい。ところでギンコは言われているようにワンピースのサンジにそっくりですね。サンジスキーなのでギンコも好きです。

2007年06月26日

本/雑誌】 横山秀夫『陰の季節』

陰の季節陰の季節
横山 秀夫

文藝春秋 2001-10
売り上げランキング : 10307
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『半落ち』がイマイチだったのであまり期待せずに読んだんですが、これは面白かった。いやぁこのひと短編の方が向いてるんじゃないの。警察は警察でも管理部門のひとに焦点を当てた4つの作品はどれもスッキリとしていて読み易かった。何て言うか、こう中間管理職の哀愁がね、もう堪らない。後味が良いとは言えない話ばっかりだったけど、妙に清々しい諦観が個人的には気に入りました。あと全編通して出てくる二渡さんが本人視点と他人視点では別人のように見えたのが面白い。格好良く見えても中の人はいっぱいいっぱいなんだなーとちょっと微笑ましくなった。所詮ワタシはミーハーだ。

2007年06月24日

フード】 FUUUU!

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歌舞伎町にあるスープカリーのお店。出てきたナンの大きさにビックリした。ワタシが頼んだのは『ガンジーセット』というカリー1種類、タンドールチキン1/2、カップライス、ナン、サラダ、デザートというなかなかてんこもりなセット。てんこ盛りだけあって色々なものを少量ずつというコンセプトが伺えたのですがとにかくナンの大きさだけが突出していた。しかしそのナンが焼き立てで、バターの焼けた香ばしい匂いが堪らなく食欲をそそったので軽く1枚食べ切ってしまいました。カレーは大好きなキーマカレーを選びましたがこれもまぁ普通に美味しかった。タンドリーチキンは何だろう、香辛料の関係かちょっと普段食べる鶏とは違う味でこれまた美味しかった。ただその鶏の付け合せに出ていた和え物みたいなのが辛くてこれだけはちょっと次回は遠慮したい。カレーと辛さの次元が違ったんだよなぁ。とにかくナンが大きくて美味しかったのが嬉しかった。次行くときは売りになっているスープカリーにチャレンジしてみたい気持ちでいっぱいです。

URL:http://www.metro-net.co.jp/fuuuu/index.htm

本/雑誌】 伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

オーデュボンの祈りオーデュボンの祈り
伊坂 幸太郎

新潮社 2003-11
売り上げランキング : 252
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地図に載っていない島、喋るカカシ、嘘しか言わない絵描き、死刑執行人。冒頭部分で出てくるこのキーワードだけ見てどんな中2病設定なファンタジーかと思ったが、実際は読めば読むほど世知辛い現実が待ち受けているミステリーでした。そして非常に良く出来ている。未来を告げる神秘的なカカシが何故自分の死を予見出来なかったのかという謎を主人公がといたシーンは最高。とは言えその動機を考えて、ちょっとブルーにさせられた。伊坂先生好きだけど、ホント読む度世知辛い気持ちになるんだよ!


しかしラストで城山が桜にボコられるところにはスッキリしたなぁ。正直このシーンのために桜の『善悪には頓着しない』設定があるのかと思ったくらいだ。相変わらず話運びは上手く、会話も軽快さが気持ち良いので一気に読めました。

2007年06月23日

本/雑誌】 エミリ・ブロンテ『嵐が丘』

嵐が丘(上)嵐が丘(上)
エミリー・ブロンテ 河島 弘美

岩波書店 2004-02-19
売り上げランキング : 206541
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ブロンテ姉妹ラストになってしまったエミリ。一般的にはこれがいちばん高評価らしいですね。確かに畳み掛けるような展開と描写にはものすごい臨場感を感じた。エミリすごい。シャーロットやアンが割とエンジンのかかりの遅い物語展開だとしたらエミリは即全開、そのまま終盤までフルスロットルで息切れ無しって感じ。ま、前半のキャサリン死去までに比べると後半は盛り上げ役がヒースクリフしかいなかったせいか温い気はしましたけど。でも始めっから終わりまで読者を掴んで放さない物語の濃さには恐れ入った。 前に読んだときは「ヒースクリフあぶねぇなー」くらいの印象しかなかったんですが、今読むと怖いのはキャサリンだ。ヒースクリフはただのドM。自分にしか分からない価値観でヒースクリフではなくエドガーと結婚し、それでもヒースクリフを昔同様に愛して奴等を仲違いさせた挙句、「2人が私を追い詰めて殺すんだわ」と訳の分からない錯乱を起こし男共を恐慌状態に陥れる。もう最高だ。こういう女に人生滅茶苦茶にされてみたい。うん、嘘。 なんにせよキャサリンのキレっぷりとイザベラの転落ぶりは一度は見ておくべきだと思いますよ。あ、あとヒースクリフの息子の腐れっぷりもだ。アイツは豆腐の角で頭ぶつけて死ぬタイプ。

本/雑誌】 服部まゆみ『一八八八 切り裂きジャック』

一八八八切り裂きジャック一八八八切り裂きジャック
服部 まゆみ

角川書店 2002-03
売り上げランキング : 93876

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これもゆずさんのオススメ。「切り裂きジャック」ものですが、リアルタイムな英国で語り手が日本人というのはちょっと新鮮で面白かった。ただ彼は異邦人という意識が強いせいか事件へののめり込みが足らなくて、読んでるこちらはヤキモキしましたよ。なので事件の謎を解き明かすと言うよりも事件の起きている現場で恋に自分におろおろしてる留学生の自分探しって感じですね。こういうの大好きですけど。そして友人鷹原の超人振りが凄くて笑ってしまった。駄目な語り部柏木を補うため事件に深く関わらせようとしたからこんな感じになったんでしょうけど、ここまでスーパーマンだといっそ清々しくて憧れる。ラブ。

2007年06月21日

本/雑誌】 高橋たか子『誘惑者』

誘惑者誘惑者
高橋 たか子

講談社 1995-11
売り上げランキング : 687136
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ひょんなことから過去の自殺者について調べ始めてしまい行き着いたのがこの本。かの有名な三原山連鎖自殺の端緒となった2人の女学生、彼女らに付き添った少女を主人公に据えた名作です。多少の設定は変えているものの実際に起こった出来事はほぼそのままに1人目の自殺の前から始まって2人目が死ぬまでを主人公視点でねっとりと描き出しています。もうとにかく主人公の友人2人が怖い。主人公の淡々とした視点も怖いけど、自分が死ぬために主人公を利用しなければいられないその一本気な少女特有のナルシズムがホント怖かった。特に1人目はそんな自分のナルシズムに翻弄されながらも主人公が救ってくれないことに「あたしはあなたのせいで死ぬ」と言い切っちゃうんだから傲慢だよなぁ。でもそんな自己愛に満ちた親友2人の死を受け止めて山を降りていく主人公がやっぱりいちばん怖いのかもしれない。高橋女史の筆でこの主人公の行く末を見たかったな。多分実際とは違うことになってるんだと思う。

2007年06月19日

本/雑誌】 シャーロット・ブロンテ『ヴィレット』

ヴィレットヴィレット
シャーロット ブロンテ Charlotte Bront¨e 青山 誠子

みすず書房 1995-06
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ついにシャーロットを読み終えた。ああああ、今とっても淋しい。可愛らしい8歳ポーリーナの言葉を借りるなら「シャーロット、あたち、あなたのこととても好きよ!」って叫びたいくらいシャーロットが大好きな自分に気付いてもう何て言うか感無量。『ヴィレット』はシャーロットが書き終えた最後の完結小説になるのですが、これがまた『教授』『ジェイン・エア』そして『シャーリー』ときて最後を締め括るのに相応しい素晴らしい小説でした。『ジェイン・エア』でさえ泣かなかったのに、『ヴィレット』の最後では軽く涙が出たよ。マジで。自己洞察の冷静さに措いて姉は妹(アン)に劣ると言ったあの言葉を撤回したい。『ヴィレット』におけるルーシーの描写は本当に、読んでいるこちらの心が凍るんじゃないかと言うほど、冷徹で容赦がなかった。

ベルギーのブリュッセルをモデルにした架空の都市ヴィレットで、天涯孤独な中産階級の娘、ルーシー・スノウが生きて悩み恋をして絶望しそれを乗り越えていく過程がこの物語の根幹を成している訳ですが、そのくせシャーロットはルーシーをジェインのようなヒロインらしいヒロインには祭り上げていない。ルーシーが主人公だと知っていたワタシでさえ、冒頭部分を読んだとき彼女は同名の別人かもしくはこの先に急展開があって性格が変わってしまうに違いないと思ったくらいだ。それくらいルーシーの観察眼は自己ではなく他人に向いていて、彼女を通して描き出される様々な人々は生き生きと輝いていた。何て言うかもう、堪らない。これはシャーロットの書いた小説の中でもいちばん自伝的要素が濃いと言われていますが、もし彼女がそのつもりでこれを書いていたのならこの物語における主人公でありながらの脇役感は彼女自身がそれを強く感じていたためなのかなぁと思って切ない気持ちになってしまうのですよ。だから正直ルーシーとムッシュ・エマニュエルの間に、方向性はともかく、特別な絆のようなものが見えたときは嬉しくなった。シャーロットは『ジェイン・エア』以降ロマンチシズムを前面に押し出したものを書くのは気が進まなかったようですが、彼女の恋に悩む男女の描写には物凄く惹き付けられるものがあるのでムッシュとの関係に揺れ動くルーシーを眺めているのはとても楽しかった。まさか終わりがあんなことになるとは予想してなかったけど。あのラストは書き手だけが持ち得る力を存分に発揮された気がした。もっともっとシャーロットにはたくさんの作品を書いて欲しかったよ。

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